第1章 第5話 戦いが終わり

「みんな、大丈夫? 特にそこの二人、回復魔法は受けたみたいだけれども……動けそう?」


「俺の機体は、ダメそうだ。駆動系が完全にやられている」


「僕も、ギシギシいうだけで動こうとしないよ。とりあえず、機体を送還させるね」




 今の状態では、機体に乗っている方が行動を阻害する。


 俺たちは機体を送還し、生身の状態に戻った。




「他の子たちも、もう送還させて大丈夫よ。この子たちの状態を確認するから、もう少しだけ待ってちょうだい」




 翡翠色の機体から、光が放たれる。


 俺たちの全身をくまなく照らして、状態を確認したようだ。




「打撲に打ち身、内出血はあるものの、骨に異常はなし。丈夫な体をしているのね」


「父に飲まされている、カルシウムの細粒が効いているのかもしれないな」




 骨といえばカルシウム。と思われがちであるが、そこには二つの落とし穴がある。


 一つ目は、食品や安価なサプリメントから吸収されるカルシウムの量は、想像以上に少ないということ。


 二つ目は、骨の強度にはカルシウムだけではなく、コラーゲンが必要になることだ。


 カルシウムだけ摂取しても、硬くて脆いという状態になるため、弾力のある折れにくい骨のためにはコラーゲンの摂取が必要となる。


 我が家で用いられているサプリメントは、専門のルートを通すためかなり高額だ。


 しかし、カルシウムの粒子が細かいため吸収率が高く、更にコラーゲンも入っている。


 毎日それを飲んでいるのが、功を奏したのであろう。




「ふぃ~! さすがにあたしも、今回ばかりはダメかと思ったぜ」


「私も、です。明が暴走しなければ、倒しきることもできたのかもしれないのですが」


「にゃあ。反省会は後にするにゃ」




 救援に駆けつけた三人が、機体を送還させたようだ。


 驚くことに、全員女性である。


 特に突撃を繰り返した少女は、俺よりも背が高く、非常に目立っていた。




「ありがとうなの。助かったの~!!」




 コクーンに入っていた少女が、こちらに駆け寄ってお礼を述べる。


 背の高さから、恐らく小学生であろうと推測する。


 金髪碧眼の美少女で、どことなく結希と似たような雰囲気だ。


 元気いっぱいの挨拶が、微笑ましい。




「あの……ありがとうございました。私一人では、何もできなかったでしょうから」




 そして、最初から戦っていた少女がこちらに来て、頭を下げる。


 ツインテールの緑髪が、大きく揺れる。


 少女はメガネを着用しており、内気な印象を受ける硬い表情をしていた。


 訓練服もかなり傷んでおり、隙間から見える肌の内出血痕が痛々しい。




「俺たちよりも、彼女の治療を優先してくれ。明らかに重症だ」


「うん。僕たちは回復魔法で、多少はましな状態になっているから」




 翡翠色の機体は、首を横に振った。




「こういう時は、こうするものよ。『アールヴヘイム』!」




 機体を中心として、温かい光が俺たちを包み込む。


 心の底まで、癒されるような感覚があった。


 光が消えると、俺たちの傷は完全に癒え、更に精神的な消耗すら消えているように感じられる。


 先ほどの「ヒーリング・ウェーブ」も凄いと感じたが、こちらはそれを大幅に凌駕する魔法であろう。




「さてと。私も機体を送還しないとね」




 機体が消え、そこに現れたのは、大人の女性であった。


 ピンク色のロングヘアに、訓練服ではなくスーツをまとっている。


 真っ白な肌と青い瞳が特徴的な、息をのむほどの美人であった。




「ところで、みんなヒーロー試験を受けに行くのよね? こちらにバスが来るから、大きな道の方に行きましょう!」




 彼女の言葉に従って、俺たちは公園を出ることにした。


 ヨネノミヤ公園は、ヨネノミヤ神社に隣接した施設である。


 神社の方に抜けて、大きな鳥居の前で待つことになった。




 少し待つと、マイクロバスが到着する。


 俺たちは次々とそれに乗り込み、試験会場に向かうことになった。




 とりあえず俺は、椅子に座ってシートベルトを着用する。


 他の者たちは、普通に座っているだけのようだ。




「久郎って、そういうところで絶対、ルールを守ろうとするよね」


「万が一事故に遭った場合、つけていれば生存率が高まるからな」




 法律上でも、着用することになっているはずだ。


 とはいえ、目くじらを立てるほどのことではないだろう。




「ところで、機体はどうしよう? あれだけダメージを受けたら、試験までに整備は間に合わないよね?」


「だな。救済措置はあると思いたいのだが」




 結希の心配は、もっともである。


 回復魔法は、有用であるが万能ではない。


 確かに機体の回路などが、回復したのは事実だ。


 しかし、フレームの歪みや破損したパーツなどを、魔法だけで回復するのは非常に難しい。




 今回のダメージだと俺たちの機体は、恐らく破棄処分になるだろう。


 年単位で愛用してきた相棒であるが、やむを得ない。




「あたしの方も、ブースターが不調だからな。何とか試合までに直ってくれると、ありがたいのだが」




 二回突撃し、ブースターを壊した少女もまた、懸念を口にしていた。




 ヒーロー試験は、学科と実技の双方で評価される。


 今日は実技の日であり、試合形式で技量が判定される。


 あまりにも差がある場合は、追加の試合でどこまで戦えるか、調べることになる。


 どちらにせよ、機体なしでは話にならない。




「予備の機体が学校にあるから、それを使って。きちんと整備されているから、安心してね」




 スーツの女性の言葉に、安堵する。


 少なくとも不戦敗だけは、免れるようだ。




「さて、学校までもう少し時間があるから、自己紹介を行うわね」




 そういえば、まだお互いの名前すら知らない状況である。


 学校につくまでに、知っておくべきだろうと思った。

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