Ⅱ 「クククク……」(逃げなきゃ……、だそうです)
ロク様の異形魔法は十歳になる頃には極みの域に到達していたそうです。
その証拠として、ロク様は異形魔法の研究し独自の魔力節約法を開発。そして、二十四時間三百六十五日常時異形魔法を発動し続けることすら可能になったそうです。
ロク様曰く「クククク……」(異形魔法は五元素魔法のように魔力を放出するのではなく、魔力を操るだけだから、僕の魔力が膨大とかそういう話じゃなく、普通に魔力が減ってないだけなんだ)だそうです。
魔力が減らないだなんて、そんなの革命です。世界の歴史すら塗り替える無限のエネルギーです。
まあ、異形魔法でしか実現は不可能のようですが。
さて、ロク様は異形魔法を何に使ったかというと、家事に使いました。
「クククク……」(これは訓練です、だそうです)と言ってメイドたちの仕事を奪っていたそうです。
あ、そう言えば異形魔法がどんな魔法なのかを説明してませんでした。
しかし、その名の通り、異形な魔法です。
異なる形な魔法です。
五大元素のどれとも異なる、何か悍ましい力を行使する魔法。
ロク様の周りにはいつだって、ゆらゆらと『手』が揺れています。
悪魔のような鋭い手であったり、触手のようにヌラヌラと地面から生える手であったり、はたまた獣のように毛の生えた手であったり。
気味が悪い。
しかし、ロク様はその気味の悪い魔法を「クククク……」と気味悪く笑いながら家事に使うのです。
本当に面白い人。
初めはロク様の異形魔法を恐れていたメイド達も、いつしか「私達の仕事を奪わないでくださいよ〜」等と軽口を叩く程度に打ち解けたと言います。
そんなメイドの軽口に対しロク様は「クククク……」とまた笑うのです。
──
ロク様は国立北方学園にご入学され、そして学園でも異形魔法を使用し非常に優秀な成績を修めたと言います。
何でも、校内の模擬戦では負け無し。もう挑むものぐらいになり、教師陣も殿堂入りの特待生としてロク様を扱ったとか。
そんな優秀なロク様のもとには、それはそれは多くの縁談が舞い込みました。
ロク様は言いました。
「クククク……」(縁談だなんて、僕にはまだ早いですよ……、だそうです)
恥ずかしがり屋のロク様です。
──
国立北方学園を卒業したロク様は、さて、本格的に縁談について考えなくてはならなくなりました。
ロク様のご両親は、ロク様が「クククク……」と気味悪く笑うことを、女性に気味悪がられてしまうだろうと不安に思っていたようですが、申し込まれた縁談の数を見てそれはそれは満面の笑みを咲かせたようです。
しかし、問題は起きました。
メイド達と仲の良かったロク様は、メイド達の協力を得て、家から逃げ出したのでした。
『ほとぼりが覚めたら戻ります』
と、書き置きを残して。
メイド達は「いまだに何言ってるか分かりませんけど、ロク様が逃げたそうだったので協力しちゃいました。これは秘密ですからね?」と口々に言いました。
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