第24話 蛇の魔女メドゥーサ

 僕たちは第四十階層に到達した。

 そこは壁と天井がガラスでてきた広い空間であった。床だけは石造りだ。

 広さはというとバスケットボールのコートぐらいだろうか。けっこうな広さだ。

「何これ?」

 天井に写る自分自身を玲奈は見ている。

 鏡に写る幾人もの自分をみるのはなんだか妙な気分だ。


「瞬様、梨香様お気をつけください。来ます!!」

 アリエルが部屋の中央を指さす。

 部屋の中央に銀色の魔法陣が浮かぶ。

 ぬるりとその光から何者かが生えるように出現する。

 それは湿った鱗を持つ巨大な蛇であった。

 正確には下半身が蛇である。

 上半身はというと豊かな胸をした女性であった。

 あまりにも不気味すぎてどんなに胸が大きかろうがHな気分には鳴らない。

 だってそいつの頭には髪の毛のかわりに細い蛇が生えていたからだ。

 ラミアとメドゥーサの混成そんなところか。

「うわっきもい」 

 母さんがさっと最後尾に隠れる。

「あれは蛇の魔女メドゥーサ。あの瞳には石化の魔力がこめられています。目をあわせないようにしてください」

 アリエルが敵の情報を的確に伝える。

 この蛇女はどうやら僕たちの世界のメドゥーサと同じ特徴のようだ。

 石化するのは嫌なので目を合わせずに戦わなくてはいけない。

 僕は警戒しながらカシナートの剣を抜く。

 

 メドゥーサはシャーという鳴き声と共に舌をだし、こちらを威嚇している。

 その舌の先端は二つに裂けていた。

 このメドゥーサはかなり蛇要素が強い。

 メドゥーサは巨体をくねらせながらこちらにせまる。


火矢十連テンファイヤーアロー!!」

 玲奈が弓矢をいるポーズをとる。

 玲奈の眼前に十本もの炎の矢が浮かぶ。

 浮かんだ瞬間、それは発射された。

 十本の火矢は左右に展開し、メドゥーサを挟み討ちにする。

 メドゥーサはその太い尻尾で火矢をすべてはじき返す。

 バリンと鏡が舞い散る。

 鏡の破片のいくつかが僕たちの前まで飛び散ってくる。

 

「しまった」

 それは瑠璃の悲鳴であった。

 瑠璃は鏡の破片の一つをみてしまった。

 そこには小さなメドゥーサが写っている。

 黄一色の瞳で瑠璃を見ていた。

 瑠璃は反射して写るメドゥーサと視線を交差させてしまったのだ。

 みるみるうちに瑠璃が石像になる。

 くそつ貴重な物理攻撃の戦力が石化してしまった。

 あのメドゥーサは魔法耐性があるようだ。

 それなのに瑠璃が石化してしまうのはかなりの戦力ダウンだ。


 母さんはアリエルの後ろに隠れてしまっている。

「わたくしたちでやりますわよ」

 まだまだあきらめない玲奈が僕に声をかける。

「ああっ」

 僕は短くこたえる。

 あのメドゥーサは鏡越しに目があっただけでも石化してしまう。


 玲奈はくるりと背をむけて駈け出した。

 アリエルのほうにむかって駈け出す。

「お母さましっかり」

 玲奈は母さんの肩をゆさぶる。

 母さんははっと我に返る。

「お母さま、ミネラルウォーターはまだありますか?」

 玲奈は母さんに訊く。

「うん、まだあるわよ」

 母さんは愛用の軍用リュックからミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、玲奈に手渡す。

 ミネラルウォーターのペッドボトルを受け取った玲奈はそれをメドゥーサめがけてなげる。流れるような動作でそれを火矢ファイヤーアローで撃ち抜く。

 瞬時に水は蒸気に変わる。

 その蒸気はメドゥーサの眼前を覆う。

 

 そのかわずかな時間だがメドゥーサと視線を合わせずにすむ。

 僕はスキル突撃を発動させる。

 渾身の力でカシナートの剣をメドゥーサの心臓めがけて突き刺す。

 鱗の部分は防御力がたかそうだがむき出しの胸部はやわらかそうだ。

 心臓をつらぬかれたメドゥーサは耳をおおいたくなるほどの断末魔の声をあげる。

 僕はさらにカシナートの剣を上にむかって振りぬく。

 メドゥーサの上半身を吹き飛ばした。

 鏡の天井にメドゥーサの上半身は突き刺さる。

 重力にしたがい鏡の破片が突き刺さったメドゥーサは床に落ちる。残る下半身からは大量の血が噴き出していた。

 なんとか倒すことができた。


 メドゥーサの血液は魔法陣の形にひろがる。

 その魔法陣は銀色に輝く。

 その光の中から銀髪美女があらわれる。

 銀の髪に黒い瞳の美しい女神だ。

 その女神は体のラインがはっきりとわかる民族衣装のようなものを着ていた。そうだチャイナドレスに似ている。

「あれは銀の鈴の女神ギンレイ様です」

 アリエルが女神の名を呼ぶ。

 銀の鈴の女神ギンレイとは頭痛が痛いみたいな名前だな。

 


「勇士様がた、我を解き放っていただき感謝いたします。まずはこのものを元にもどしましょう」

 ゆっくりと銀髪チャイナドレス美人は瑠璃に手をかざす。

 みるみるうちに瑠璃はもとのすがたにもどった。

「ごめん、お兄ちゃん。役にたたなくて」

 瑠璃は可愛い顔の前で両手をあわせる。

「いや、それよりももとにもどってよかったよ」

 うんっあのまま石像のままだったらどうしようと思った。

「勇士様がた解放していただいたお礼にこの銀鈴の神衣をさしあげます。あなたがたの武運をいのります」

 銀の鈴の女神は自らの豊満な体を包むチャイナドレスの胸元をつかむ。

 次の瞬間、銀の鈴の女神の姿は銀の光につつまれる。

 残されたのは白いチャイナドレスだけだった。


 玲奈はそれを拾うと母さんのもとに持っていく。

「これはお母さまがきるのが良いと思います」

 玲奈が言うには瑠璃はすでにレダの鎧を装備している。

 玲奈は赤影の仮面があり、そして胸がはいらないということだ。

 母さんも巨乳だがさすがにエロホルスタインとよばれる玲奈ほどではない。

 いい感じの巨乳を母さんはしている。

 ということでその銀鈴の神衣は母さんが装備することになった。

 まさか実母のチャイナドレス姿を見るとは夢にもおもわなかった。


「この銀鈴の神衣は素早さ上昇、魔力増大、そして召喚獣のスキル付与があるようね」

 鑑定士でもある玲奈は銀鈴の神衣の効果をそう読んだ。

「梨香様、魔犬アベルが召喚できるようです」

 その銀鈴の神衣に手をかざしてアリエルは言った。


 

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