第25話 訓練

 第四十階層を突破した僕たちは、探索を切り上げて帰還することにした。

「ごめん、今日はあたし役たたずやったな」

 銀鈴の神衣に着替えた母さんがしょんぼりしている。

「あたし、虫や蛇って苦手やねん」

 母さんは昔からそうだったな。家に虫が出たときは僕や和馬兄さんが退治したものだ。

「ですがお母さま、それは今日かぎりにしてください」

 玲奈の言葉は手厳しい。でもこれから冒険を続けるのなら克服してもらわないと困る。

「お母さん、ボクが守ります。だから援護してくださいね」

 瑠璃が腕を曲げて力こぶを作ってみせる。

「そうね、瑠璃。だから油断しないでね」

 人さし指をたてて、玲奈は注意する。

 メドゥーサ戦では二人は役に立たなかったからな。これから上を目指すのなら、しっかりしてもらわないと。


 バベルの塔を出て、僕たちは自宅に帰還する。それから三日間の休息をとり、探索に出る。

 この日の探索は言わば訓練であった。

 さらなる上層階を目指すのなら、僕たちには決定的にかけるものがある。それは連携のとれた戦いである。

 今まではその場その場で動いていた。これからはそれではまずいというのが、玲奈と瑠璃の意見であった。さすがはダンジョン経験者といったところか。

 母さんもその意見には賛成であった。

「あたし負けへんからね」

 と母さんはやる気満々だ。

 いい傾向だとおもう。やはりこのバベルの塔を踏破したならば行方不明になった和馬兄さんと再会できるというのが大きい。母さんの大きなモチベーションだと思う。


 ダンジョン以外では戦闘系スキルの使用は法律で

禁止されている。銃刀法が改正され、攻撃系スキルもその中に含まれるようになったとことだ。それは玲奈が教えてくれた。

 鑑定などの非戦闘系は使用できるのだという。

 治癒系スキルを持つものが病院で働いていたりする。ダンジョンの登場により、社会システムは変化しているのだ。

 ダンジョン登場以前と以後では別世界だとキウひともいる。

 産油国が没落しているというニュースもたまに見かける。

 まあ僕たちにとって世界情勢よりもバベルの塔攻略が最優先事項だ。

 

 訓練の場は第十階層にした。

 適度な広さがあり、エリアマスター討伐後は安全地帯となっているからだ。

 まず僕は玲奈と組み、魔法の特訓をした。

 玲奈は母さんよりも確実に火矢ファイヤーアローのスキルを使いこなしている。

 玲奈は第三十階層のエリアマスターである嘆きの鬼女ネイマンを一人で討伐したほとだ。

 僕は玲奈の真似をして弓を撃つ構えをとる。

 顔の横に火矢ファイヤーアローが浮かびあがる。それを壁に向かって撃つ。

 生み出された火矢ファイヤーは空中でからみ、火蜥蜴サラマンダーに変化した。着弾すると火蜥蜴サラマンダーは壁を大きく破壊する。

 どうやら火矢ファイヤーアローを重ねると別の魔法スキルへと変化するようだ。

 火蜥蜴サラマンダーはスピーカーは遅いが破壊力は抜群だ。


 玲奈は次に母さんと連携する。

 母さんが風刃ウインドブレイドを放ち、玲奈がそれに火矢ファイヤーアローを被せる。

 火と風は混ざり合い竜巻となる。

 竜巻は回転し、雷を発しながら壁を大きく破壊した。

「うわっものすごい威力やな」

 母さんがチャイナドレスの乳袋の前で腕を組んで感心する。我が母ながらエロいチャイナドレスだ。この乳袋はどういう仕組みなのだ。

 玲奈の分析では赤影の仮面レッドシャドウマスクと銀鈴の神衣の効果により魔力が増大した結果だということだ。

 さらに玲奈の提案で僕のカシナートの剣に魔法スキルを付与してみることにした。

 スキル突撃を発動させながら、カシナートの剣を振るう。そのカシナートの剣の刃に玲奈は火矢ファイヤーアローを重ねる。

 刃に炎が纏う。

 剣を振るうと床に大穴があき、焼け焦げた。まるで爆弾が落ちたようなクレーターがあく。

 これもまたすさまじい破壊力だ。

 ただ刃が焼け焦げるので、あまり回数は使えないな。もっと耐久力のある剣が欲しいところだ。

 カシナートの剣を雑巾で拭くと一応は元の輝きを取り戻した。

 僕はこの能力をヒノカグツチの剣と名付けた。


 僕たちと同じように母さんは瑠璃の黒豹ロデムのサーベルに風刃ウインドブレイドの力を付与する。

 驚いたことに瑠璃の背後に筋骨隆々なる風の魔神が浮かぶ。

 瑠璃が黒豹ロデムのサーベルを振り降ろすとその風の魔神が拳を振り降ろす。

 竜巻が巻き起こり、床が吹き飛ぶ。

 僕のヒノカグツチの剣と同じような破壊力だ。あの角のある悪魔アークデーモンも一撃で撃破出来るだろう。

 瑠璃はその剣を風魔神のジニーブレイドと名付けた。なかなかいい中二的センスだと思う。

 この後、何度か僕たちは連携をとる訓練をした。

 契約の銅板を見ると僕たちのレベルは四十に到達していた。

 訓練の成果はかなりのものだ。

 これをせずに上層階へのチャレンジは無謀だと思われたほとだ。

「さあ明日からまた上を目指そう」

 訓練を終えて、僕は皆に言う。

 心地よい疲労感がある。

 僕の言葉に皆が力強く頷く。


「ほんならアリエルちゃん、明後日からまた上を目指すからね」

 バベルの塔を出る直前に母さんはアリエルを抱きしめる。

「アリエルちゃんの体って冷たいな」

 母さんはアリエルに言う。

「この体はかりそめの機械のものですから。賢者ミカエラ様によってつくられたからくり人形です。私の本体はお父様と同じカナンの地にあります」

 そっとアリエルは母さんの背中に手を伸ばす。

 二人はしばらく抱きしめ合う。

 ということはアリエルの本体に合うにもこのバベルの塔の最上階に行かなければいけないのか。

「その通りです、瞬様」

 アリエルは微笑みかける。


 バベルの塔を出て、僕たちは丸一日の休息をとる。訓練だけだったが魔法スキルを連発したのでそれなりに疲れていたからだ。

 はやる気持ちはあるが、ここは焦りは禁物だ。

 十分に体を休ませた僕たちはバベルの塔の第四十階層に戻った。

 まずは第五十階層を目指そう。

 訓練の効果だろうか、僕たちは順調に進み思ったより容易に第四十九階層までたどり着いた。


 

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実家の裏山にバベルの塔が生えた件について。アラフォー社畜のおっさんはやがて勇者になる 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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