第18話 旅の目的

 アリエルの目的を知った僕はバベルの塔攻略を決意した。それにはとうぜん母さんも同意した。

 鷹城玲奈と豹塚瑠璃も協力してくれるという。

「第二十階層も攻略したし、今回はこれで一時撤退しましょう」

 鷹城玲奈がそう提案する。

 僕と豹塚瑠璃はそれに賛同する。

 エリアマスターであるアンドラスとの戦いはやはりそれなりに疲労した。今回もたいした怪我はしていないが、余裕のあるうちに帰還すべきだ。

 アンドラスを撃破したことにより、第二十階層には第一階層へともどる転移魔法陣が出現している。

 その転移魔法陣は幻夢の女神レダの髪色と同じオレンジ色であった。


 僕たちはその魔法陣に乗り、第一階層に戻る。

 淡いオレンジの光に包まれる。

 光が消えると僕たちは第一階層に戻っていた。

「次回から私に申しつけていただければ第十階層か第二十階層に転移するかを選択できます」

 下腹部に両手をあて、アリエルはお辞儀をする。まるでエレベーターガールのようだ。もしかして和馬兄さんがアリエルに仕込んだのか。

 アリエルのことを姪と知って以来、どこか親近感を持つようになっていた。


 入り口付近まで来るとアリエルが僕に語りかけてきた。

「瞬様、これより先の冒険にマナストーン、こちらの世界でいう神霊石が必要になるかも知れません。できるだけこちらの世界の通貨に換金するのを控えるようにお願いします」

 アリエルは静かに言う。

「それはなぜ?」

 僕が理由を訊くとアリエルは小さく首をふる。

 禁則事項と言うやつか。

 まあ良い。前に十分すぎるほど現金を手にした。

 アリエルがそう言うのなら、従ってみよう。

 何故ならアリエルはこのバベルの塔の案内人ナビゲーターで僕の姪で母さんの孫なのだから。

「ほんならな、アリエルちゃん。また会おうな」

 母さんは涙ながらにアリエルの両手を握る。

 一時的とはいえ、やはり肉親との別れはつらい。

「じゃあアリエル、またな。すぐに戻ってくるよ」

 僕はアリエルに別れを告げる。

「はい、瞬様、梨香様。またお会いしたいです」 

 僕は後ろ髪を引かれる思いでバベルの塔を後にした。


 アリエルの目的を知った日から三日が過ぎた。

 僕はアリエルのアドバイス通り、神霊石を現金化しないでおいた。

  これがこれからの冒険にどんな役にたつか分からないが、それに従うことにした。

 三日まるまる休暇にあて、僕たちは四度目のバベルの塔攻略に赴いた。

 たっぷり休息したので、体の調子はすこぶる良い。


 すでに慣れた感のあるバベルの塔の美女のドアノブに手をかける。

 軽く押しただけで黒鉄の扉が開く。

 今まであんなに重かった鉄の扉が軽く感じる。

 これがレベルアップの効果だろうか。

 出発前に契約の銅板を確認したが、全員のレベルは二十五に上がっていた。


 バベルの塔第一階層に入ると魔法陣からアリエルが姿をおらわす。

「おはよう、アリエルちゃん。今日もよろしくな」

 母さんがアリエルに挨拶する。

 アリエルはワンピースの裾を両手でつかみ、チョコンと頭を下げる。

 実に優雅な姿だ。

 本当に僕の姪だろうか。

 こんな可愛い娘がいて、あんなに美人の妻がいる和馬兄さんが正直羨ましい。

 バベルの塔を攻略して再会したら嫌味の一つも言ってやらないといけない。


 僕たちはアリエルの案内で第一階層の転移魔法陣に向かう。

 その転移魔法陣は紫色とオレンジ色が入り混じった複雑な色をしていた。

「それでは瞬様、梨香様どちらに向かわれますか?」

 アリエルが首をかしげて僕たちに問う。

「もちろん第二十階層から上を目指すわよね」

 鷹城玲奈が爆乳と比べてやたらと細いウエストに手を回して僕たちを見る。

 この女、あんなに胸と尻がでかいのにどうしてウエストだけ僕の頭並みに細いのだ。


「もちろんだよね、お兄ちゃん」

 幻夢の女神レダの鎧ことビキニアーマーを装備している豹塚瑠璃が僕に確認する。

 豹塚瑠璃はビキニアーマーに薄手のコートという姿だ。さすがにビキニアーマーだけて動きまわるわけにはいかないようだ。

 この漆黒のコートは魔銀ミスリルのコートと呼ばれるものだ。通気性、保温性、耐熱耐寒、耐魔法、耐物理防御さらに微弱ながら体力回復の効果がある魔法道具マジックアイテムだ。

 鷹城玲奈と豹塚瑠璃が以前に加入していた白い牙ホワイトファングが別のダンジョンで入手したものだ。

 それが冒険者専門の道具屋「バルバロッサ」にて販売されていた。

 金額は二百万円とべらぼうに高いが、その効果の高さから僕が購入を決めた。

 コートの下はビキニアーマーの美人ができあがあったというわけだ。


 僕たちは転移魔法陣に乗る。その瞬間目が開けていられないほどの光に包まれる。

 しばらくして視力が回復したころには第二十階層の広い部屋に来ていた。

 僕たちは第二十階層の端にある階段を登る。

 さて、ここからまたダンジョン攻略だ。

 何が出るかわからない。若干の緊張を覚えつつ、僕たちは隊列をくむ。

 僕と豹塚瑠璃が前衛で母さんと鷹城玲奈が後衛だ。しんがりはいつものようにアリエルがつとめる。


 第二十一階層では扉のある部屋をいくつか発見した。これはそれまでに見ないものだ。

 木の扉を慎重に開けるとそこには何もないというのがほとんどであった。

 稀に敵モンスターが出現し、戦闘となる。

 敵モンスターはそれまでの豚鬼オーク緑鬼ゴブリンだけでなく、見るからに毒々しい色のポイズンスライムや見た目は可愛いが幻惑の魔法を使う幻惑妖精ピクシーなどその種類が多くなってきた。

 特に幻惑妖精ピクシーは厄介でその魔術にかかった鷹城玲奈が僕に抱きついてきた。

 セクシー美女に抱きつかれてうれしいが、戦闘中は困る。

 母さんが鷹城玲奈の頭を海皇ポセイドンの杖で一つ叩き、中治癒リヒールをかける。

 母さんの治癒魔術は精神攻撃にも効果があるようだ。


 厄介な敵が増えるなか、僕たちはさらなる上階を目指した。

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