第12話 利益は公平に

 丸一日休息をとり、体力はほとんど回復した。まあ怪我らしい怪我はしていないしね。

 バベルの塔が裏山に出現して五日目、僕は探索を再開しようとしたがストップがはいった。

「あれだけの数の神霊石を一般家庭に置いておくのは危険だわ」

 鷹城玲奈が僕に言った。

 現金化して、それぞれの口座に振り込むのが妥当だろうというのが鷹城玲奈の提案だ。

 それには母さんも豹塚瑠璃も賛成した。

 たしかにこんな田舎の家に億単位の価値のあるものを置いておくのは怖い。

 ということで僕たちは母さんの軍用リュックいっぱいに詰められた神霊石を換金すべく、天王寺の換金所に赴いた。


 天王寺の換金所につくと白髪のナイスミドルが僕たちを出迎えてくれた。

 鷹城玲奈の紹介でその人物は換金所の所長で関西圏の神霊石取り扱いの責任者であるという。

 名前は田城と言い、鷹城玲奈の上司にあたる。

「これだけ高い純度の神霊石を見るのは始めてです」

  軍用リュックから取り出した神霊石の一つを白手袋をはめた手でつかみ、田城は言う。

「所長どうでしょうか?」

 鷹城玲奈が営業スマイルで尋ねる。

 どうやら狸の化かし合いをしているようだ。ここは専門家の彼女に任せよう。

 僕としては前と同じ値段でひきとってもらえればいい。

「そうですね、この数とこの高純度ですと六億八千万円でいかがでしょうか」

 予想よりも高い値段が提示された。

 その値段を聴いて僕は会社員を辞める決意をした。

 田城所長の言葉のあと、鷹城玲奈は僕を見る。

 営業スマイルのままなので感情が読めない。

「ええ、十分です」

 僕は答える。

 本当にそれだけあれば十分だと思った。

 もしかするともっと高値をつけられるかもしれないが、この海千山千っぽい田城という男と交渉をするのは正直疲れる。

 僕はできればバベルの塔の探索に専念したい。

 あの塔にはどうして僕たちしか入られないのか。

 あの黒ずくめの人物は何者なのか。

 また、アリエルの願いも叶えてあげたい。

 あの銀髪ツインテールの美少女がバベルの塔から離れられないのも気になる。

 そう考えるとあのバベルの塔とやらは謎だらけだ。

「それでは振り込み金額はどのようになされますか?」

 田城がそう尋ねる。

 ああっそうか。その大金をどのように分けるかか。

 揉め事は面倒なので四等分で良いだろう。

「じゃあ、きっちり四等分でお願いします」

 僕の言葉を聞いた鷹城玲奈と豹塚瑠璃はえっマジッと同時に叫ぶ。

 母さんはなぜかしたり顔だ。

「本当によろしいので?」

 田城所長が再確認をする。

 もちろん僕に異論はない。

 逆にどうして田城所長は何度も確認するのだろうか。


「ええっと僕たちはパーティーでそれは仲間なのですから。利益は均等に分け合いたいと思います」

 せっかくの仲間だからね。お金のことで揉めたくない。きっちり四等分にして平等がいいだろう。

 今回の冒険で稼いだお金だけで僕には十分過ぎる。あまり欲張りになると身を滅ぼすというのは古今当座の物語がそれを証明している。

 稼いだお金の四等分ということは約一億七千万円だ。サラリーマンの生涯年収にちかい。

 これだけあれば十分だ。


「お兄ちゃん、本当にいいの」

 ショートカットを揺らして豹塚瑠璃が僕の顔をのぞき込む。間近で見ると可愛いな。

「広瀬川さん。参考までに一般的なダンジョンマスターの取り分は収益の五十パーセントです。なのでわたくしたちは残りの五割を三分割する形でもかまいません」

 鷹城玲奈は冷静にそう説明した。

 へえ、他のダンジョンマスターってとり過ぎだな。因みにダンジョンマスターとはダンジョンの土地所有のことだ。実はあの家と裏山の所有者って名義上は僕なんだよね。

 固定資産税とかは母さんが払っていたけどね。

 うん、でもまあいいや。

 母さん、それに鷹城玲奈や豹塚瑠璃にはこれからのバベルの塔探索に力を貸してもらわないといけない。これはその前払いと考えたらいいだろう。


「田城所長、やはり取り分は四等分します。それで手続きをお願いします」

 いぶし銀の俳優のような顔立ちの田城所長に僕はそう言った。


「お兄ちゃん、大好き♡♡」

 豹塚瑠璃が首元に抱きつく。

 むふっ控えめながらも存在感のあるおっぱいを背中に感じる。

 鷹城玲奈はなんと僕の頬にブチューとキスをした。えっ何これ。またキスされた。鷹城玲奈はキス魔か。

「広瀬川さん、私と結婚しましょう。そして子供を作りましょう」

 真剣な顔で爆乳美女は僕を見つめる。否が応でも僕は鷹城玲奈とのエッチな妄想をしてしまう。

「いい加減にしなさい。このエロホルスタイン」

 スパコンッと母さんが鷹城玲奈の頭をスリッパで叩いた。母さんもスリッパを持ち歩いているのか。


「貴方がたのような仲の良いパーティーは始めてです。こらからもどうぞご贔屓に」

 ハハハッと田城所長は高笑いをした。


 この後、僕たちは銀行に行き、手続きなんかをした。VIP待遇をされたので背中がむず痒い。

 結局、この日は手続きや買い物なんかで一日を費やしてしまった。

 まあ女子三人との買い物は楽しかったから良いとしよう。

 晩御飯には母さん特製のカレーを皆で食べた。相変わらず母さん、鷹城玲奈、豹塚瑠璃は騒がしくてうるさい。でもそれは嫌ではなかった。

 それに何より母さんがたのしそうにしているのが良い。母さんってもともとはにぎやかなのが大好きだからね。

 和馬兄さんが行方不明になってから実家がこんなににぎやかになっのは初めてじゃないかな。

 そういう意味ではあの二人には感謝しないといけないな。

 そしてバベルの塔が裏山に生えて六日目、僕たちあらためて探索に出たのであった。

 

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