第13話 新たなる敵
実家の裏山にバベルの塔が出現して六日目、僕たちは探索を再開した。
あの美麗な女性がかたどられたドアノブを握り、鉄の黒扉を開ける。
念の為、後ろをみたが母さん、鷹城玲奈、豹塚瑠璃が続くだけだ。
バベルの塔に入ると黒い鉄の扉は自然に閉まる。
誰かがついてくる気配はない。
まあ、そんなすぐにあの黒ずくめの怪人の正体はわからないか。
母さんが怪人二十面相じゃないかなと冗談を言っていたのを思いだす。
まさかね。
僕たちがバベルの塔に入ると光の魔法陣からアリエルが出現する。
「第一階層の最奥に転移魔法陣を設置いたしました」
下腹部に両手をあて、アリエルはていねいにお辞儀をする。高級デパートのエレベーターガールを連想させる仕草だ。
「わかった」
僕たちは歩き出す。
第一階層はただの一本道だ。隠れるところはない。
一応警戒して歩みを進めたが、あの黒尽くめはでない。キラースライムもでない。
「あらスライム出へんね」
母さんがきょろきょろと周りを見る。
「第一階層から第十階層の敵モンスターは掃討されました。しばらくはあらわれません」
アリエルは僕たちの後ろを歩きながら、解説する。
なるほどね、倒しきってしまったのか。
キラースライムだけを倒し続けるということは難しいということか。
そう簡単に稼がせてはくれないか。
まあ、あれだけ稼がせてもらったので良いと言えば良いけどね。
「見えてきたね」
豹塚瑠璃が紫色に輝く魔法陣が見える。あれが第十階層への転移魔法陣だ。
「ほな行こか」
母さんが僕の手を握る。
転移魔法陣で一緒に転移するには体の一部が触れていないといけないというルールがある。
右手を母さんが握り、左手を鷹城玲奈が指を絡めてくる。
豹塚瑠璃が背後から抱きつく。美人たちに囲まれて悪い気はしない。まあ、母さんだけは違うけどね。いくら若がえって、可愛くなったとはいえ母さんは母さんだ。
僕たちは眩しい光に包まれる。
光から解き放たれると第十階層に到着していた。
便利なシステムだ。
女神アルメリアがいた部屋は無人であった。
奥の扉を開けると上階にあがる階段が見える。
僕たちは先に進むために階段を登る。
階段を登りきると第一階層と同じような白い廊下が伸びている。
ここからは未知の第十一階層だ。
見たところ今までの階層とそれほど変化はないように感じる。
「とりあえず前に進もうか」
母さんが歩き出す。
おっとっと隊列を保とないと。
「母さん、僕と豹塚が前に出るよ」
「そうよ、前衛はボクたちだからね」
豹塚瑠璃が僕の隣に立つ。
「そうやったな」
母さんは後ろに下がる。
近接戦闘を得意とする僕と豹塚瑠璃が前衛で魔法攻撃ができる母さんと鷹城玲奈が後衛だ。
そしてバックアタックをサレルノを防ぐためにアリエルがしんがりにつく。
ふりむくとアリエルが最後尾を静かについてきていた。
「瞬様、梨香様ここらからモンスターの強さが格段に上がってきます。お気をつけください」
アリエルが注意を促す。
これも解放された禁則事項からの情報だろうが。
しばらく直線の道を歩くと左右に分かれる道が見える。とりあえず左にすすむ。以前読んだ漫画では人は迷ったら左に行くという法則があると書いていた。なのでその法則に従ってみた。
左に進み、程なくしてモンスターがこちらに近づいてくる。
何やら背の低い、人型のモンスターであった。腰蓑だけをつけた緑色の怪物であった。
濁った金色の瞳でこちらを見ている。
「あれは
あれがゲームなんかでおなじみの
あきらかにモンスターではあるが、人間に近い姿をしているので若干ためらう。
人を殺すのはさすがにためらってしまう。
それが明らかにモンスターであってもだ。
「お兄ちゃん、戦闘に集中して」
低く腰を落として、抜刀の構えをとる。
シュッという風切音のあと豹塚瑠璃は
瞬時に
僕は気持ちを切り替える。
奴らは人ではなくモンスターだ。
僕はカシナートの剣を抜き放つ。
スキルの一つ突撃を発動させる。
スキル突撃は攻撃力を約十倍にする。しかし、かわされたり、耐えられたりして反撃されると回避率が四十パーセントまで低下する。
言わば薩摩示現流のような特徴だ。
僕は前方にいる槍を持つ
耳をふさぎたくなるような断末魔をあげて緑鬼は絶命する。
後方支援の母さんと鷹城玲奈がそれぞれの魔法で左右に展開しようとしていた
今回あらわれた
キラースライムの時よりは一回り大きな神霊石がドロップされた。
母さんと鷹城玲奈が回収して、軍用リュックに収納する。
戦闘は短かったが、なかなかメンタルにこたえる。キラースライムなら明らかにモンスターであったが人型の
「広瀬川さん、大丈夫ですか?」
鷹城玲奈が僕の顔をのぞき込む。
眼鏡の奥の綺麗な瞳が僕をじっと見ている。
「さすがにね」
僕は苦笑いする。
「やはり引き返しますか?」
鷹城玲奈は冷静にそう訊く。
「お兄ちゃん、つらそうね。早いけど切り上げてもいいよ」
「瞬君、一回家に帰ろうか」
母さんも心配してくれる。
「いや、行こう」
僕は皆に言う。
ここで引き返してもいいが、それでは得るものは少ない。多少メンタルにはぐるが、相手は人間ではない。モンスターだ。そう割り切ろう。
それに僕はこのバベルの塔に隠された禁則事項という秘密を知りたい。
アリエルが言うには第二十階層にまたとらわれの女神がいるとのことだ。
ふと、僕は母さんがネックレスに加工した契約の銅板を見る。
レベルが十五に上がっていた。
戦闘自体は今のところ、それほど苦戦することはない。
できるだけ上を目指そう。
「行こう、みんな」
僕は決意をし、歩き始めた。
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