第11話 休息

 僕はその黒い影を人だと思ったが母さんたちの反応は微妙だった。

「うーん、どうやろな」

 母さんは瑠璃のノートパソコンをのぞき込んで、首をかしげる。

「そうね、見えなくもないわね」

 鷹城玲奈は眼鏡のレンズをきらりと光らせる。

「画像も荒いし、すぐ消えるしで何とも言えないわね」

 豹塚瑠璃は目を細めてノートパソコンの画面見つめる。拡大しても黒い影が大きく映るだけでそれが何者か分からない。

 人間だといえば人間だし、人間でないと言えば人間ではない。

「またバベルの塔を探索したらわかるかもね」

 パタンと豹塚瑠璃はノートパソコンを閉じる。

「じゃあ、明日またバベルの塔に行こう」

 気になる僕はそう提案する。

 あのバベルの塔には僕たちしか入ることができない。それなのに他に誰かいるというのは気になる。


「広瀬川さん、それはやめたほうがいいわ。ダンジョン探索は目に見えない疲労がたまっているのよ。二、三日は休息したほうがいいわ」

 鷹城玲奈はそう提案する。

 それには豹塚瑠璃もどう意見であった。

「お兄ちゃん、戦闘はどれも勝てたけど体はかなり疲れているのよ。休息も冒険者の仕事の一つ」

 豹塚瑠璃がぽんぽんと背中を叩く。

 母さんもそれに賛成のようだ。

「あたしも疲れたわ。少なくても明日は寝ときたいわ」

 母さんは自分の肩をもむ。

 母さんは見た目は二十代前半だが、実年齢は六十代だからね。疲れがあるのも仕方がない。

 三人がそういうならば、仕方がない。

 とりあえず明日は休むことにしよう。


 食事を終えた僕は風呂につかり、汚れと疲れを落とす。

 自室に戻り、ベッドに寝転がると、とたんに疲れがふきだしてきた。

 目をつむるとそのまま眠ってしまった。


 どれぐらい眠っただろうか。

 七時間か八時間は眠ったと思う。

 途中で起きることなくこんなにも長時間眠ったのは久しぶりだ。

 目覚めると頭はすっきりしていた。

 これならばやはり今日もバベルの塔の探索に行けるのではないか。

 そう思った僕は下腹部になにやら重みをかんじた。

 これは金縛りに近い感覚だ。

 それにしては何やら柔らかい気がする。

 僕は何度もまばたきして、下腹部に乗るものを見る。目覚めたてでぼやけていた視界がはっきりする。

 はっきりした視界に写るのは白くて柔らかそうな肉の塊だった。完熟メロンサイズの白い肉の塊は二つある。それは白いブラジャーに包まれていた。

 ブラジャー?

 疑問符が頭の中を駆け巡る。

 ぐいっと眼鏡をかけた秀麗な顔が近づく。

 右目の下のほくろがセクシーだ。

「あらお目覚めですか」

 白い手のひらで頰をなでられる。

 これは夢なのか。

 僕はエッチな夢を見ているのか。中高生ではあるまいし。でもこのシチュエーションは夢に違いない。

「夢かな」

 僕が言うと鷹城玲奈は小さく首を横に振る。

「いいえ、夢じゃないわ。わたくし、あなたのことが気に入りましたの。わたくしのものにしたくてね」

 そういうと鷹城玲奈はさらにその綺麗な顔を近づける。鼻先が僕の鼻にふれる。温かい吐息が頬にふれる。

 そのまま鷹城玲奈の唇が僕の唇に触れる。

 とんでもない柔らかさだ。

 その柔らかさに僕の頭は真っ白になりそうだ。

 どういう話しの展開で僕の下腹部に鷹城玲奈が馬乗りになり、キスをするのだ。

 疑問が頭を駆け巡るが、キスの快感が思考能力を低下させる。

「広瀬川さんさえ良ければもっといいことしましょうか?」

 鷹城玲奈は僕の頰を両手で挟む。

 こんな爆乳美人にこんなことを言われて断れる男がいるだろうか。


「このエロホルスタイン!!」

 パツンッとスリッパが鷹城玲奈の黒髪を跳ねる。

 豹塚瑠璃がスリッパ片手に仁王立ちで立っていた。彼女はパジャマ姿であった。

「あら瑠璃早いのね」

 鷹城玲奈の言葉に導かれるように僕は壁のデジタル時計を見た。午前五時を少し回ったところだ。

 いやあ、けっこう寝たな。

 いや、今はそれどころではない。

 どうして下着姿で鷹城玲奈が僕の部屋にいるのだ。


「アルメリアの紋章を使いスキルをコピーするにはキスをする必要があるのよ」

 そう言うと鷹城玲奈は深い胸の谷間から小さな鹿の角を取り出した。

 そんな発動条件があったなんて初耳だ。

 ということは僕は鷹城玲奈のスキルである鑑定と火矢ファイヤーアローを入手したということか。

「そういうこと」

 今度は豹塚瑠璃が僕にキスをした。

 チュッと湿った音がする。

 豹塚瑠璃は甘くていい匂いがする。

 美女二人にキスをされて、僕は今日死ぬんじゃないか。

 そう思っていたらまた柔らかいものが口にふれる。もうこれで三度目だから分かる。これは唇の感触だ。

 しかし、この人キス長いな。ブチューとキスされている。うん、よく見るとこの丸顔は母さんじゃないか。

「うわっ!!」

 僕は飛び起きて、母さんを引き剥がした。

 実母とキスなんて本当にやめてほしい。

 母さんはゲラゲラと笑っている。


「まあこれで次の探索はかなり楽になるわね」

 鷹城玲奈はまた胸の谷間から契約の銅板を取り出し、それを見せる。

 鷹城玲奈の胸の谷間は四次元ポケットかなにかか。まああれだけ大きく出て深ければ何でも入るか。

 契約の銅板を見るとスキルが突撃、鑑定、火矢、小治癒、風刃、加速、抜刀術と刻まれている。僕は一気にスキル七つ持ちになってしまった。

「スキルを七つも持たいるなんて世界でも五人しかいないのよ。広瀬川さんは六人目になったわ」

 爆乳を揺らしながら、鷹城玲奈は自慢気に言う。

「お兄ちゃん、すごいね」

「瞬君、すごいやん」

 僕は皆に褒められて有頂天になった。

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