第21話 今度、また

「玲!早く来いよ!!」

「そんな慌てなくても大丈夫だって。」


二人は今、非番の最中。出かけるという約束を果たしていた。子どものようにはしゃぐ創を見ながら玲は困ったように笑う。どこに行くか、何をするか、話し合った結果…


「動物園!やべぇ!俺初めて来た!」


"初めて"という言葉に玲の心はズキっと痛む。

いろんな事情があって今があるのだと思うと創のことを守りたい気持ちが湧き出てくる。

家族に貰えなかった愛情を代わりに僕が埋めよう。

そう思いながら創に手を引かれついていく。


「なぁ、パンダってさ、双子生まれると1匹しか育てないらしいぞ。もう1匹は見捨てられてしまうんだって。俺も妹いるけど俺だけ暴力振るわれたり、空気みたいな扱いを受けてきたからパンダと変わりないよな。俺の前世ってもしかしてパンダ?」


冗談ぽく言う創だか目は笑っていない。

またマイナスなことを…。そんな思いを壊そうとするかのように玲は必死になって盛り上げようとする。そんな玲の努力のおかげか創は嬉しそうに園内を駆け巡る。


あっという間に夕方を迎え、創はあからさまに寂しそうな表情を浮かべる。電車に乗り込もうともしない彼を見つめながら肩をトントンと叩く。


「永遠の別れみたいな顔しないでよ。また遊びに行けばいいんだから。職場も一緒なのに寂しさなんて感じないでしょ。」


「そうだけど…めちゃくちゃ楽しかったんだから少しくらい余韻に浸ってもいいだろ。誰かと出かけたりはしゃいだり…俺には全て新鮮なんだよ。このままずっと時間が止まればいいのにって思うくらいだ。そう思うのはお前がそばにいるからだろうな。」


乗る予定だった電車を見送り、次の電車を待つ。しかしそれにも乗ろうとしない創に玲は少し困った顔をしながらホームのベンチに座る。


「ならもう少しだけここで話そうか。でも次の電車には必ず乗ること。いい?」


「…ああ、嫌だけど約束する。嫌われたくないし。こんなわがまま言うのも玲に甘えてるからだろうな。お前には本気で感謝してるんだ。もっと早くに出会えてたらよかったのに。」


手で顔を覆いながら大きく吐息を漏らす。

家族に愛されて育った玲には創のことを理解することはできない。また創も同じように玲が持つ愛を感じることは出来ない。電車がすれ違うようにお互いの気持ちもすれ違う。薄暗いホームに二人の存在だけが濃く広がっていき、それをかき消すように準急電車が到着する。


「…乗るよ、創。」


立ち上がる玲をちらりとみながら後ろについて行く。座席に座り、二人の間に再び沈黙が流れる。


「…今度実家に帰るんだ。もし良かったら創も来る?きっと母さんも喜ぶと思うよ。弟もいるしゲームでもしようか。」


「いや…さすがにそれは…家族の時間邪魔したら悪いだろ。ありがとな。」


ガタンと電車が揺れ、玲は座席に寄りかかりながら創の横顔を見つめる。ふとしたときに見せる切なげな顔。創の今の言葉は本音じゃないと玲は気づいていた。言い方のせいで気を使っているのかと感じた玲は言葉を変えて創に向かって微笑みかける。


「僕が来てほしいと思ってるんだ。一緒に来てくれたら凄く嬉しいな。母さんにも友達が出来たって紹介したいし。」


「…本当にいいのか?迷惑になると思うけど。」


「迷惑じゃないよ。だから行こう。楽しみだね」


創は戸惑いながらもこくこくと頷く。

再び出来た約束。二人はニヤリと笑いながら肩を組む。

向かい合う笑顔。居心地のいい電車の振動。


そんな平和な時間に酔いながら

電車がゆっくりとホームに到着した。

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