第20話 極秘
太陽が照りつける署内。
玲と創は忙しく動き回っていた。
「罰として署内清掃は酷すぎるだろ…」
「……文句言う暇あるなら手動かしてよ。創、ずっと喋ってばっかじゃん。」
机を拭いていた玲は椅子に座っている創の顔面に雑巾を投げつける。宙を舞った雑巾は見事に命中し、顔を舐めるようにゆっくり滑り落ちていく。
創の怒りも聞こえないふりして手を進めていた玲は表紙にでかく" 極秘 " と一冊のノートに釘付けになる。人間とは隠されているものほど見たくなる生き物だ。「見たい」と「見てはいけないの」の間に挟まれた玲。伸びる手を必死で止める。
「お、なんだそれ。極秘?この机、柳署長のだよな。」
良心というものを知らぬ創はサッとノートを手に取りまじまじと見つめる。何も考えていないのだろうか、ノートを開こうとする彼の手を玲は慌てて掴む。
「ダメだよ。極秘って書いてるだろ…」
「本当に極秘ならこんな無防備に置かねぇって。もしかしたらとんでもない事が書かれているかもしれないぞ。…署長の妄想…とかな。大丈夫、大丈夫。ちょっと見るだけなら問題ないよ。極秘なら俺たちだって知る権利があるだろ。」
よく分からないことを正当化させる彼に玲は頭を抱える。遠慮なく開いたノート。創の表情が一変する。「は…?」という声に玲も何事かと覗き込む。
「こ、これって……」
"今日は可愛く飾り付けが出来た。60点といったところだろうか。生クリームは緩すぎた。マイナス20点。味は良し。80点。"
そう書かれた文の下にはケーキの写真が貼り付けられている。どうやら極秘ノートとは柳の趣味ノートだったらしい。大きな声で笑い出す創に戸惑いつつも柳のあまりのギャップに玲も釣られて笑い出す。
「柳署長、スイーツ作りが趣味って言ってたけどここまでとはな。感想まで添えちゃって。」
「極秘って書いてるからバグとかエラーに関する重要な事が書かれているかと思ったけどただの趣味だったね。良かったといえば良かったけど残念といえば残念だな。」
柳の趣味ノートで盛り上がる中、ものすごい殺気立った圧を背後から感じ取ることが出来る。
そして振り向かなくとも察する。命が握り潰される数秒前だと。玲と創は押し合いながら猛スピードで姿を消す。そんな二人の背中を見つめながら舌打ちをする柳はノートを手に取りペラペラとめくる。
「……笑うほどおかしいのだろうか…。私は自分の趣味に誇りを持っているんだがな…」
一方、逃げ切った二人は倉庫の裏で息を整えていた。追いかけてこない柳に安堵しつつも見てしまった罪悪感を噛み締める。馬鹿にしたつもりはないが勝手にノートを覗かれ挙句の果てには笑われていると知った柳はもしかしたら傷ついたのでは…?
玲は謝ることを決意し、創を振り向く。
「謝りに行くよ。さすがに僕たちが悪いだろ。勝手に見たんだし…きっとすごく怒ってるよ。」
「…はぁ…わかったよ。今日が命日にならないといいな。」
来た道を戻り、まだ立ちつくしている柳の背中を見守る。「あれは相当怒っているな…」と創の肩をつつき、二人は観念したように柳に土下座する。
そんな二人を見た柳は交互に軽く頭を弾きながらブツブツと文句を言って消えていった。
「想像より大丈夫そうだったな。怒りよりショックの方が大きかったのかね。別に恥じることねぇのに。」
「…僕たちが笑ったからダメなんだよ。誰だって勘違いするだろ。はぁ……今度署長にご飯でも奢らないと…」
「お、いいね。スイーツ天国にでも行くか。駅前の食べ放題のとこ。めっちゃ美味しいって話題だろ。」
二人は掃除そっちのけでどうすれば柳の機嫌が治るか会議を始める。真剣な顔にそっと影が落ち、午後はゆっくり終わりを告げた。
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