第17話 過去、蘇るもの
「起きろ、玲」
激しく揺すられ、柳の声で目を覚ます。
時刻は深夜の3時。こんな時間にどうしたのだろうと寝ぼけた目をゴシゴシと擦る。
「さっさと着替えろ。雨だ。」
雨?窓を見るとポツポツと窓を叩く音に玲はガバッと起き上がり少し呼吸を荒くする。
次の雨は再来週だったはず……
「雨…?雨予報なんて書いてなかったですよ…」
「バカ言うな。天気予報が全てなわけがないだろう?くだらないこと言ってないでさっさと着替えて署前に来い。急げよ。」
バタンと閉じる音と共に部屋の外から慌ただしい音が聞こえる。どうやらみんな起きてきたのだろう。玲も急いで服を着替え、寝癖すらも忘れて部屋を飛び出す。
"エラー。バグ発生。水たまりを踏み、ただちに裏の世界に向かってください "
ディテクトから流れる警告音と共に水たまりに向かう。もう既に来ていた柳らは玲を見て頷く。
「行こう」という合図だろう。躊躇いなく水たまりを踏み、裏側に入り込む。
パラパラと玲達を打ち付ける雨の中ディテクトが反応し、夕陽の声が聞こえてくる。
「柳署長。ここから10メートル先、ショッピングモール内でバグが感知されました。少し手強い相手かもしれません。油断は禁物です。数は…三体。お気を付けて。」
通話が切れると同時に柳は眉間にしわを寄せながら舌打ちする。車に乗り込む柳の後を追い、一同はショッピングモールへと急ぐ。薄暗い館内。懐中電灯で足元を照らしながら進んでいく。不気味なほど静まり返った空間に恐怖を感じているのか、がっしりと腕にしがみついてくる創。文句ありげな表情で見ていた玲にそっとつぶやく。
「俺暗いの苦手なんだよ…昔押し入れに閉じ込められてからトラウマでさ。」
力なく笑う創に複雑な感情が生まれる。
過去に何かあったのだろうか。
そんなことを思いながら歩いているとガタンと音が聞こえる。それも四方八方からだ。
「署長、署長。私の勘が当たってたら〜…もしかして囲まれてます?」
蚕の言葉に一同の動きが止まる。背後、前後、横側から飛び出す三体の影。どうやら蚕の言う通り、本当に囲まれていたらしい。
悲鳴をあげながら創は再び玲に抱きつく…がなにか様子がおかしい。
「あれ…玲…なんかお前…体温異常に高くね?」
「おい!創くん!!そいつはバグだ!離れて!!」
突如ディテクトから夕陽の叫び声が響き飛び退く創。一体のバグは創に目を付けたのかしつこく襲いかかる。
苦手な暗闇、襲ってくるバグ。彼は完璧にパニックに陥り銃を乱射する。
「あっぶな…!落ち着ついて!今すぐ銃から手を離して!僕が仕留める…!」
暴れる創にまとわりつくバグは言葉にならない言葉を発しながら創の首を掴み持ち上げる。
宙に浮いた体、詰まる息。彼はもう気絶寸前まで追い詰められ死を覚悟する。
「あっ……俺…死ぬんだ……」
全てを諦めかけたその時、弾丸がバグの頭部を撃ち抜く。続いて喉元、腹部…ありとあらゆる場所に発泡し、点滅したのは喉元だった。弱点を見つけ出した玲は喉元を集中的に狙う。
バグは唸り声をあげながら玲を睨みつけていたが、創から手を離し、次は玲に向かってくる。
そんな二人の応援に来た深月は落ち着いた対応でナイフをバグに向ける。
「どいて。」
その場にしゃがむ玲。投げたナイフがバグ喉元に突き刺さり倒れ込む。しかしバグはしぶとく、まだ這いながら玲の足を掴もうとしていた。
咄嗟に打った弾丸が喉元に命中し、バグはノイズとなって消滅していく。
残りの二体もシャットダウン出来たのか、再び静寂が戻ってくる。
「シャットダウン、バグのデータ削除完了。お疲れ様でした。」
夕陽の声に安堵のため息をついた玲は創の元に走り寄り、手を差し出す。彼の震える手を感じ取り優しく肩をさする。
「…もう大丈夫。帰れるよ。」
ゆらりと立ち上がった創は何かに耐えるように微笑む。普段は慰めてくれる側の創だったが今はそうではないみたいだ。創の様子に一同は顔を見合わせるが特に何も言わない。それが優しさだと思ったからだ。
「ごめん…俺…こんなつもりじゃ…」
「…創、顔を上げて。また後で話そう。」
玲の言葉にしばらくして頷く。
そんな彼はとても小さく見えた。
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