第15話 自然な関係へ

日が昇り始めた早朝、玲は目を覚ます。

まだ時刻は6時を回ったばかりだ。

今日、非番だった玲は訓練場に向かい銃を撃ち続ける。どのくらい時間か経っただろうか。玲を探しに来た創が嬉しそうに走ってくる。彼の手には料理本が持たれていた。


「なぁ、朝ごはん作ろうぜ。暇だろ?」


「…朝…ご飯?なんで急に…」


「たまにはいいじゃねぇか。俺ら非番なんだし。こうでもしないとお前はずっと訓練するだろ?俺は心配で仕方ないんだ。違うことにも挑戦しようぜ。」


突然の提案に戸惑う玲はしばらく考えて首を横に振る。料理などしたことない彼にとっては地獄でしかないからだ。きっと時間の無駄だろうと断りを入れる。創は少し傷ついた表情を浮かべるが引き下がらずにしつこく誘い、半場強引に食堂まで引きずっていく。


「いいか。俺らが協力すれば出来ないことはないんだよ。戦いも…料理もな。まずはそうだな…これなんてどうだ?卵焼きに焼き魚、そして忘れちゃいけないお味噌汁。これぞ理想の朝食ってもんよ。材料はあるから心配すんな。」


「…言っておくけど僕は料理したことないからね。材料が無駄にならないといいけど…」


「バカ野郎。失敗を恐れてたら何も出来ねぇよ。やってみなきゃわかんねぇ。もしかしたらこれを機にとんでもない才能に目覚めるかもしれないぞ?」


ブツブツ言いながらも創の押しに負け、仕方なく料理を始める。食材を切り、お湯を沸かし、焼き加減を確認しながら忙しく動く。焦げ臭い香り、お湯が飛び散る音。そして出来たのは……


「……なんだこれ。この料理本嘘つきやがったな?なんで見本通りにしたのに炭が目の前にあるんだ?」


「違うよ、創…僕たちが壊滅的に下手なんだ…だから言ったでしょ…無理だって…」


真っ白なお皿に乗った、真っ黒な食べ物らしきもの。二人は躊躇いながら箸でつつく。

ホロホロと崩れゆく儚い姿を見ながら苦笑いを浮かべお互いにお皿を押し付け合う。


「玲、お前が食べろよ。腹減ってるだろ。俺は優しいから…譲ってやるよ」


「…いや。いい。それより僕の作った卵焼き食べてほしいな。君のために作ったんだから。」


どう見ても食べれたもんじゃないだろ…と押し付け合いが続く中、焦げ臭い匂いにつられ食堂に入ってきたのは夕陽だった。チャンスだと言わんばかりに夕陽に駆け寄る二人。その手にはもちろん真っ黒な物体が持たれている。


「ちょうどよかった、夕陽さん!これ食べてください。俺たちが作ったんで!見た目はあれですが…味は…保証…」


もごもごと言葉を濁す創から黒い物体に目を移す。夕陽は2度見しながら拒絶するが「せっかく作ったのに」と言う言葉を聞き、結局泣く泣く口に運ぶ。

結果は想像通り。ジャリジャリと口内を攻撃する物体に意識を失いそうになりながらも粗末にしてはいけないと泣きながら咀嚼する。

満足そうな二人の背後でうずくまる夕陽。その姿はとても見ていられない。


「な?たまにはこういう日もいいだろ。お前は訓練ばっかで周りと関わろうとしないからな。俺はもっとお前と仲良くなりたいんだ。戦友だけじゃなくて自然な友達になりたくてさ。」


「…そうだね。これからはもっといろんなことをしよう。創の言う自然な友達…僕に教えて。」


「おうよ。俺に任せろ。」


優しく微笑みながら拳と拳を軽くぶつけ合う。


君の言った通り。確かにこんな日も悪くないね。

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