第12話 裏側の街、収まらぬ鼓動
" 今日の蒼雨市(あおさめ)の天気は午前中に雨が降るでしょう。皆さま傘をお忘れなく…… "
天気予報が流れる食堂で一同は武器の最終整備をしている。渡された戦闘用の拳銃を手に取り、そっと窓の外に目を向ける。空は薄く淀んで薄暗さを作り出していた。忙しく歩くサラリーマン、自転車に乗り、子どもを幼稚園に送る母親たち。玲は再び視線を手元に向けて深く深呼吸する。
「…玲、ちょっといいか?」
突然の柳の呼び出しに素早く反応し席を立つ。
しばらく歩く二人の背中に気まずさが流れている。
「……ここだ。」
柳が指さす方を辿って視線を固定する。
簡易的だがおそらくお墓だろう。たくさんの板。その中に父の名前が書いている板を見つけ、悲しげな顔で眺める。
「…成瀬くんが生きていた証だ。そして死んだ証でもある。ここに来る度に思うんだ。会いたくてももう二度と会えないんだと。」
「…署長が…」
何かを言いかけて言葉を止める。「見捨てなければ助かった命だ」と言いたかったが今ギクシャクするのは望んでいない。墓を見る柳の表情は苦悩に満ちていた。そして持っていた花を優しく下ろす。隅に置かれたワスレナグサと彼岸花。「私を忘れないで」「再開」の意味を持つその二輪の花は風に吹かれて寂しげに揺れている。
「……純。玲が来たぞ。」
語りかけながら小さなグラスにお酒を注ぐ。
それは生前、父が好きだったものだ。
複雑な気持ちで見守る玲の頭上にぽつりぽつりと水が落ちてくる。
「…雨が降ってきたな。みんなと合流しよう。」
食堂に戻った玲と柳は不安気に窓を眺める一同の背後に立ち、呼びかける。
「準備をしろ。準備が整い次第いつもの場所に集まれ。それから玲と創。お前達は私から離れるな。」
いつの間にか外は雨に飲まれていた。
準備を終えた柳らはみんなが集まるいつもの場所、警察署前に足を運ぶ。外は多くの水たまりがあり、波紋を作り出している。
突如ディテクトから鳴り響く警告音の音に耳を澄ませる。
" エラー。バグ発生。水たまりを踏み、ただちに裏の世界に向かってください "
「来たな…よし、準備はいいか。玲、創。水たまりを踏めばこの街は裏側の世界に変わりバグが現れる。……行くぞ。」
急いで水たまりを踏む柳。街は何も変わらないように思える。しかし、やけに静かで不吉な予兆がする。さっきいたはずの人々の姿はなく、雨が地面に跳ねる音だけが響いている。
「署長、今回のバグは二体いますがそれほど厄介な相手ではないようです。早くシャットダウンさせましょう。指示は任せてください。」
「ああ。いつも通り署内でのサポートを頼む。夕陽。」
軽く頭を下げ署内へと入る夕陽に背向け、柳はディテクトを確認する。バグは二体、それぞれ離れたところに姿を現していた。画面に映るバグは少し離れたところにあるビルに登り、咆哮をあげている。
「深月。お前は私たちと一緒に来い。渚、蚕、お前たちはもう一体のバグを頼む。出来るな?」
「任せてよ署長〜、行くよ渚!」
「蚕…毎回そうだけど遊びに行くわけじゃないんだぞ…」
ブツブツ言いながら去っていく渚と蚕を見送り、柳たちも現場に向かうため車に乗り込む。
車内は誰一人話さない。居心地の悪い不安定な揺れだけを感じながら玲は落ち着かない様子を見せる。
だんだんと咆哮が近づく中、車が急停車し深月と柳が降り、慌ててあとを追う。
顔を上げる玲にバグの姿が映し出される。
「あれが…バグ…?」
巨大な黒い影は3メートルを超えるだろう。
手に汗握る光景。玲のうるさい鼓動が心境を表しているようだ。
「…シャットダウン開始。」
柳の冷たい声がバグの咆哮と共に耳に流れ込む。
ホルスターから銃を取り出しギュッと握りしめる。
玲の手は酷く震えていた。
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