第11話 不安、渦巻く

早くも日が経ち、明日は雨だ。一同は会議室で真剣な顔をしている。ついに来た。この日を待っていたのか来ないでほしいと願っていたのか。今は何も考えることができないくらい切迫した雰囲気に息が詰まりそうだ。


「ついに明日だが…覚悟は出来ているか?玲、創。」


柳の言葉に顔を上げゆっくり頷く。しかし頭に浮かぶのは恐れや不安。全てマイナスな感情で埋め尽くされる。「情けない」と自己嫌悪に陥り、出るのは深く、重いため息ばかりだ。昨日あんなに暖かかった雰囲気は今や氷のように冷たく、笑顔などひとつも現れない。それはそうだろう。明日は何が起こるかわからないのだから。


「……訓練してきます」


かすれるような声でそう告げ、玲は足早に会議室を出ていく。そんな様子を見た柳は不安げに揺れる瞳を露わにする。訓練に熱心なのはいいことだが自分を追い込みすぎている。明日に支障をきたすのではないかと心配が尽きない。しかし止めたところで彼は話を聞かないだろう。会議室のドアを大きく開き、走り去る玲に叫ぶ。


「程々にしろよ。」


創は玲の後に続くように廊下に出ようとするが、柳の手が腕を掴む。なにか言いたげだが手を離し、創の腕を解放する。


「…あいつのことちゃんと見ててやってくれ。誰かが止めないと恐らく明日の朝まで訓練するだろう。あいつは自分に厳しすぎる。危機感は大事だが彼の焦りはあまりにも露骨だ。…頼むぞ、創。」


「…わかりました。任せてください。」


創は軽く敬礼し玲の後を追う。

柳の目にはまだ複雑な気持ちが渦巻いていた。


「そんなに気になるならなんで自分で行かないんすか。自分で言ったほうが早いっすよ。」


コーヒーを飲みながら渚は不思議そうに首を傾げる。柳は渚が飲んでいたコーヒーを奪いながら無言で肩をすくめるだけだ。

何かを察した渚はそれ以上何も言わなかった。

その頃、訓練所についた創は玲を見守りながら銃を弄ぶ。


「…なぁ、今日は何時まですんの?」


「…わからない。出来るだけするよ。」


訓練所で会話を交わす二人の間に様々な感情が広がる。黙々と発砲する玲の表情に暗い影が差す。

練習の成果が出ているのか、玲の弾丸は全て的に当たっている。だが玲は納得いかない。中心に当てないと意味が無いと思っているからだ。


「…もういいだろ。お前は十分やれてるよ。」


「ダメだよ。中心に当てないとダメなんだ。」


「…一応言っておくが的とバグは違うぞ。的はその場で止まってるけどバグは動くんだ。言ってる意味がわかるか?つまり"的"の中心に当てても意味がないってことだよ。」


その言葉に玲は止まる。確かにそうだ。動かない的の中心に当てても意味がないだろう。ふと我に返り、銃を机に置く。そして創の腕を掴み訓練室から出て食堂に向かった。


「…ありがとう、もうやめにする。ご飯食べに行こう、奢るよ。」


「お、最後の晩餐になるかもな?豪勢にいこうぜ。」


不謹慎な言葉を放ちながら冗談交じりに笑う創だが、彼の心にも、もちろん濃い不安が渦巻いている。玲の前で暗くなれば伝染してしまうだろう…と悪循環を避けて明るく振舞っているだけなのだ。


「…明日は絶対生きろよ。俺はお前を失いたくないからな。…俺の唯一の…友達だし…」


「…失いたくないのは僕も同じだよ。お互いに気をつけよう。」


二人は顔を合わせ笑顔を交わす。

その笑顔には切実な願いが浮かんでいる。


バタバタと忙しいエラーの前日。


玲は眠れずに朝を迎えた。

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