第10話 街を守る者
次の日、まだ重いまぶたを擦りながら制服に着替え、会議室に集まる。既に来ていた柳は小さな電子機器を玲の腕に装着する。
「…これは?」
「バグを感知する機械、ディテクトだ。必ず肩身離さず付けておけよ。いつ雨が降るかわからないからな。見方、使い方は創が来てから教える。」
腕に付けられたディテクトをぼーっと眺め、みんなが集まるのを待つ。しばらくすると会議室には七人が揃い朝の集会が開かれる。
「さっき玲と創に渡したディテクトの使い方を説明する。この機械はバグを感知する機能、状況を他の者に伝える通信、制限時間の表示、様々な役割を果たしている。そして夕陽が送るサポートもここに表示されるから戦闘中は必ず確認しろよ。命に関わる情報もあるからな。あとは…エラーが訪れる日はディテクトから知らせが来る。まぁそれは後々わかるだろう。…少し試してみよう。まずこのボタンをタップすると通信状態になる。」
柳がディテクトに向かって声を出すとまるでグループ通話しているように、みんなのディテクトに一斉に声が届く。玲も真似してボタンをタップし、声を吐き出す。
「すごい…これで状況を伝えることができるんですね。メモしておかないと…」
ざっと説明を聞き、朝の集会は終わりを迎える。
「午前中は街の見回り、午後からは訓練をしろ」との指示を受け、玲と創は街に繰り出す。特に問題がない、平和そのものの街。雨が降るとエラーが起きるなんて想像もできないような賑やかで騒がしい人の声が飛び交っているスクランブル交差点。
「…なんでエラーって起きるんだろう。こんな平和なのに。」
「…さあな。水に濡れると壊れる電子機器と同じような原理なんじゃね?街も水に濡れるとエラーが起きる。…それがなぜこの街に現れるのか意味わからないけどな。署長ですらその理由を知らねぇんだから俺らがわかるわけないだろ。とにかく俺たちがするべきことはバグをシャットダウンすることだ。それだけこなせばこの街は何も起きないんだからな。」
「そうだね。僕たちにしか守れないんだから…この街から笑顔が消えないように全うしないと…」
うだうだと言いながら見回りを終え、警察署に戻る。相変わらず警察署内はお祭り騒ぎだ。
危機感がないのか、その状況に慣れてしまっているのか…誰かが投げた枕が玲の顔に当たり、ドサッと音を立てて落ちていく。痛みに呻き、顔を手で覆う。部屋の中は酷い有様だった。
右側では「蚕、物に当たるなよ。ゲームに負けたんだから昼飯奢れ。」
「渚がズルしたんじゃん。このバカ兄貴。」
「なんだと?お転婆女が。」
左側では「深月さん!僕の足踏んでます!」
「…あ〜…影薄くて気づかなかった。ごめんね。朝日。」
「夕陽ですよ!!」
こんなうるさい場所は初めてだ…と玲はさり気なく耳を塞ぐ。そんな玲を見てケラケラ笑う創。
様々な個性がぶつかり合い、とんでもない空間が出来上がっていた。
内心、脳天気な人達だな…と思いつつもこの瞬間が心地いい。
「おい、新人野郎。昼飯賭けてゲームしようぜ。負けたら五人分奢りだ。」
「五人…?ここにいるのは六人…あ、絶対俺のこと忘れてるでしょ!俺も仲間に入れてください!」
夕陽の叫び声をBGMにし、渚にゲームに誘われた玲と創は少し躊躇いつつも「息抜きも必要なこと」だと言われ結局喜んで席に座る。ゲームが得意な玲は3勝0敗に終わり、見事奢りから逃げ出すことに成功する。
「お前上手すぎ。こんなに上手いって知ってたら絶対誘わなかったわ。ってことで奢りは夕陽に決定〜。」
「え、俺負けてませんけど…!?というか勝負に入ることすら出来ませんでしたが…」
騒ぎを聞きつけワイワイと盛り上がる場所に鋭く光る眼差し。
この後彼らは柳にこっぴどく叱られることとなった。
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