Section_2_4a「おめかしかー。いいねいいね」
## 1
文化祭当日の朝、私は彩乃にもらったワンピースを着て学校に向かった。
いつもとは違う自分に、なんだかそわそわしてしまう。電車の窓に映る自分の姿を確認しながら、今日という日への期待と不安が胸の中で渦巻いている。
文化祭。
図書委員の展示。
そして、もしかしたら——
「おはようございます」
図書室に着くと、すでに何人かの委員が準備をしていた。
「おー、奏っち!」
木下くんが大きな声で迎えてくれる。
「なんか今日、いつもと違わない?」
「え?」
「なんていうか……華やかっていうか」
華やか。
やっぱり、見た目が変わると他の人にもわかるんだ。
「文化祭だから、ちょっとおめかししただけ」
「おめかしかー。いいねいいね」
木下くんがにこにこしている。
「航は?」
なんとなく、彼の姿を探してしまう。
「まだ来てないよ。クラスの準備があるから、少し遅れるって連絡があった」
クラスの準備。
そういえば、各クラスも今日は出し物がある。
「そっか」
少し残念な気持ちになる。朝一番に航に会えると思っていたのに。
「展示の最終確認をしましょうか」
曽我さんが資料を持って近づいてくる。いつもの通り、きっちりとした表情だ。
「はい」
私たちが作ったポップを改めて見直す。
この二週間、航と一緒に時間をかけて作り上げた展示。
どの作品も、私たちなりの視点で本の魅力を伝えようとしている。
特に、航が書いた文章は本当に美しくて——
「素敵な展示ですね」
曽我さんが感心したような声を出す。
「ありがとうございます」
「特に、この文章。詩的で印象に残ります」
曽我さんが指さしたのは、航が書いた『夜のピクニック』のポップだった。
『時は流れ、季節は巡る。でも、この一歩一歩は二度と歩めない』
彼の言葉を見るたび、胸が暖かくなる。
「中村くんが書かれたんですよね?」
「はい」
「才能がありますね。将来、文章を書く仕事に就かれるかもしれません」
文章を書く仕事。
航の将来について考えたことはなかったけれど、確かに彼には文才がある。
「でも、中村くんは理系のクラスでしたよね?」
理系?
「あ、はい……そうです」
そういえば、航は理系クラスにいる。
理系なのに、あんなに文学的な感性を持っているなんて。
ますます興味深い人だと思った。
## 2
午前中は来場者の対応に追われた。
図書委員の展示は思った以上に好評で、たくさんの人がポップを読んでくれている。
「この本、面白そうですね」
「どこで買えますか?」
「作者の他の作品も読んでみたいです」
来場者の方々からそんな声をかけられるたび、嬉しい気持ちになる。
私たちの展示が、誰かの本との出会いのきっかけになっているんだ。
でも、航の姿はまだ見えない。
「中村くん、まだクラスの方が忙しいのかな」
木下くんがつぶやく。
「そうみたいですね」
私も少し心配になってきた。
午後には必ず来てくれるよね?
「あ、奏ちゃん」
振り返ると、彩乃が手を振りながら近づいてきた。
「お疲れさま。すごい人気じゃない」
「うん、思ったより多くの人が来てくれてる」
「展示も素敵よ。特にこれ」
彩乃が航のポップを指す。みんな、彼の文章に魅力を感じるんだ。
「ところで、中村くんは?」
「まだクラスの準備で——」
そう答えかけたとき、図書室の入口に人影が現れた。
航だ。
やっと来てくれた。
「あ……」
でも、彼の表情を見て、私は言葉を失った。
なんだか、すごく疲れているように見える。
そして、どこか焦っているような——
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