Section_2_3a「じゃあ決まり。お買い物に付き合って」

## 1


「奏ちゃん、今度の土曜日空いてる?」


金曜日の放課後、彩乃が突然そんなことを聞いてきた。


「土曜日? 特に予定はないけど……」


「じゃあ決まり。お買い物に付き合って」


お買い物。


彩乃は時々、急にショッピングに行きたがる。たいてい服を見に行くのだが、私にはあまり興味のない分野だ。


「服?」


「服もだけど、それだけじゃないの」


それだけじゃない?


「何を買うの?」


「色々。まあ、行けばわかるよ」


彩乃がにやりと笑う。なんだか怪しい。


「なんか企んでない?」


「企んでなんかないよー。ただのお買い物」


嘘だ。絶対に何か企んでいる。


「本当に?」


「本当本当。信じてよ」


彩乃の「信じて」ほど信用できないものはない。この子は昔から、サプライズが大好きなのだ。


でも、断る理由もない。


「わかった。何時にどこで待ち合わせ?」


「十時に駅前のカフェで」


「了解」


彩乃がぱっと明るい笑顔を見せる。


「楽しみー」


楽しみって、一体何を企んでいるんだろう。


## 2


土曜日の朝、約束の時間に駅前のカフェに向かうと、彩乃がすでに来ていた。


「おはよう、奏ちゃん」


「おはよう。早いね」


「うん、楽しみで早く起きちゃった」


彩乃がテーブルの上に雑誌を広げている。ファッション誌だった。


「今日は何を見に行くの?」


「まずは服かな。奏ちゃん、最近おしゃれに興味出てきた?」


おしゃれに興味。


「別に……」


「嘘つけ。この前、鏡を見る時間が長くなったって自分で言ってたじゃん」


そんなこと言ったっけ?


「言ってないよ」


「言ってた。髪型とか気にするようになったって」


確かに、最近は朝の準備に時間がかかるようになった気がする。


でも、それは——


「もしかして、誰かに見られることを意識してる?」


彩乃が意味深な笑顔を向けてくる。


「してないよ」


「本当にー?」


「本当」


でも、心の中では否定できない自分がいた。


最近、確かに身だしなみを気にするようになっている。


それは、航に見られることを意識しているからかもしれない。


「まあいいや。とにかく行こう」


彩乃が立ち上がる。


「どこに?」


「まずはデパート」


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