Section_1_2a「漫画ももっと増やそうよー」

## 1


図書委員会は、思っていたより普通に進んだ。


新刊選定の話し合いでは、いつものように活発な意見交換が行われる。木下くんが「漫画ももっと増やそうよー」と提案すると、二年生の女子委員たちが「賛成!」と手を挙げる。一方で、三年生の男子は「受験参考書の方が実用的では」と真面目な意見を述べる。


私はその様子を見ながら、委員長として意見をまとめていく。普段通りの仕事ができている自分に、少しホッとした。


航は最後まで発言しなかった。


でも、他の委員の意見を聞く時の表情は真剣だったし、メモを取る手も止まっていない。彼なりに参加しているのは伝わってくる。


「それじゃあ、今日はここまでにしましょう」


一時間ほどで会議を終えると、委員たちは三々五々帰り支度を始める。部活がある子は急いで荷物をまとめるし、友達と約束がある子はスマホを確認している。


私も自分の荷物をまとめようとして、ふと気がついた。


いつものノートがない。


「あれ……」


鞄の中を探しても見つからない。教室の机の中だったかな?


「どうしたの、奏ちゃん?」


木下くんが声をかけてくる。


「ノートを忘れたみたい。ちょっと教室に取りに行ってくる」


「一緒に行こうか?」


「大丈夫。すぐ戻ってくるから」


手を振って図書室を出る。二年一組は三階だから、少し歩かなければいけない。


でも、途中で気がついた。


あのノートは、きっと図書室にある。


## 2


私には秘密がある。


それは、読書記録ノートのこと。


普通の読書感想文とは違う、自分だけの記録をつけているのだ。読んだ本のタイトルや作者はもちろん、印象に残った文章を書き写したり、そのときの気持ちを詳しく書いたりしている。


でも、それだけじゃない。


時々、自分なりの感想や解釈を書き込むことがある。作者の意図とは全然違うかもしれないし、的外れなことかもしれない。でも、その本を読んで自分が感じたことを、誰にも遠慮せずに書いている。


そのノートには、きっと他人には見せられないことがたくさん書いてある。


だから、なくしたらまずい。


「あった……」


図書室に戻ると、さっき座っていた席の横にノートが落ちていた。表紙は何の変哲もない大学ノートだけれど、中身は私の宝物だ。


ホッとしながらノートを拾い上げる。でも、その時だった。


「それ、落としましたよ」


振り返ると、航が立っていた。

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