第5話
俺はレンを剣の稽古に誘った。剣の打ち合いという激しい動きをすれば、チラッとへそぐらい見えるのではないかという魂胆だ。
我ながらなんて頭がいいんだと家の庭で木剣片手にほくそ笑みながらレンを待った。しかし、そんな天才俺の裏をかくようにレンはシャツをズボンに入れて現れた。
「すまない遅れた」
袖口広がりの体型の分かりづらいぶかぶかのシャツを着たレンは申し訳なさそうにした。サラシを巻いているのか巨大な膨らみは鳴りを潜めていた。
俺は「気にすんな」と言ってすぐに稽古を始めた。
どうにか剣をシャツに引っかけてズボンから出してやる。
最初はそんな意気込みのもと攻め攻めで剣を振っていたが、すぐに違和感に気づいて俺は剣を振る腕を止めた。
「レン流石に手加減しすぎてないか?」
レンの動きが鈍すぎる。それに明らかに俺に力負けしている。まるで、女の子…みたいだ。
「すまない。手加減しているわけじゃないんだ。ただ、最近思ったように体が動かないんだ。それに激しい動きをすると胸が擦れて…」
恥ずかしそうにしながらレンは自分の胸に手を当てた。胸が大きいのを隠す気があるのかないのか、もはや分からない。
「大胸筋か?」
助け舟を出すように俺は聞いた。
「そ、そう!大胸筋!僕は男だからな。大胸筋以外に何が擦れるというだ」
慌ててレンはそう答えた。
大胸筋はおっぱいみたいに擦れねーよ。服に擦れるならまだ分かるけど。まぁ、そこはどうでもいい。今の受け答えを聞くにまだレンは男でいようとはしているみたいだ。
このまま剣の打ち合いを続けてレンの下腹部を確認するか?はっきり言ってレンの弱体化はかなりのものだ。剣をシャツにひっかけるなどやってればいつかできる。でも、胸が擦れて可哀想だし、無理矢理付き合わせてるみたいで気が引ける。もっといい下腹部確認方法があればいいが…。
「どうすればいいんだろ…。このまま剣を握っててもベルトの足を引っ張ることになるよな」
俺が思案していると、悩みでも打ち明けるようにレンが言った。
その時俺にピーンと天啓がおりた。
「どうせだから魔法使いに転向したらどうだ?」
「でも、それじゃあ前衛がベルト一人になっちゃうじゃないか」
「俺、最強だから気にすんな。早速、魔法使い用の装備を見に行こうぜ。一緒にさ」
「二人で?」
レンが上目遣いで聞いてきた。
「嫌ならアリアかメリーでも誘うか?」
レンは首を横に振り「二人で行こう。ちょっとまっててくれ。準備してくるから」とはしゃぐ子供のような足取りで家の中に入って行った。
俺も一応汗とか拭いとくか。
後を追うように俺も家の中に入った。
冒険者の装備を売っている店は大商会が経営しており王都の中心地にある。武具だけじゃなくカジュアルな服装なども売っている大きな店だ。冒険者だけじゃなく一般の人も入りやすいため、日夜繁盛している。
俺とレンはそんな冒険者ショップとは名ばかりの服装屋に向かっている途中だが、レンの様子がどうにもおかしい。
弾むような足取りにたまに聞こえてくる鼻歌。艶のある髪は櫛でもといたかのように綺麗に整えられ、太陽のもとキラキラと輝き足取りに合わせてサラサラと揺れた。
中性的な顔立ちということもあり今のレンを男と思うものは少ないだろう。
「なんでそんな…上機嫌なんだ?」
疑問に思った俺はレンに聞いた。
髪をといたかも聞きたかったが、なんか勇気が出なかった。
「なんでもないよー」
と、明らかに上機嫌にレンは答えた。
前は服装を買いに行くだけでこんな上機嫌にはなってなかったのに何がレンをこうしたというんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます