第6話

 冒険者ショップ内は煌びやから鎧や剣が展示されていた。鎧は俺の戦闘スタイル的にあまり欲しくはないが、剣の方はついつい目に止まってしまう。赤い剣、青い剣、黄色い剣、それぞれ魔法が付与されており振っただけで対応する魔法攻撃を相手に与えるという。 

 基本力押しの俺みたいな奴でも擬似的に魔法攻撃を行えるのはなかなか興味がそそられる。しかし、今日はレンの装備、もとい下腹部の石を確認しにきたのだ。誘惑に負けることなく魔法使い装備が陳列されている場所まで向かった。が、その途中レンが足をピタっと止めた。一般服売り場に展示されている可愛らしい服装を心奪われた様子で見つめていた。


「あの可愛い服が欲しいのか」


 心ここに在らずのレンに聞いた。


「うん…」


 とレンは小さく頷いた。

 普通に女物の服を欲しがっちゃってるよ。


「でも、アレは可愛すぎないか。普通にかっこいい服が欲しくないか?」


 俺がいうとレンは何か気づいたように顔をハッとさせた。


「あ!当たり前だろ!ぼ、僕は男だぞ!ただ、ちょっと、その…そう!妹!妹に似合うと思ったんだ。それだけだ!ほら!こんなところで油売ってないで早く行くぞ」


 慌てて取り繕い逃げるように立ち去ろうとするレンを俺は呼び止めた。


「どうせだから着てみないか?案外、男でも似合うかもしれんぞ」


 俺の提案にレンは足を止めた。

 展示されている服装はへそ出しトップスとショートパンツで女盗賊が着ていそうな服を一般向けに改造された感じの服だ。もしこれをレンに着せることができたら下腹部を見ることができるから提案したしだい。後はレン次第だ。


「ベルトが言うなら着てみようかな。僕は全然着たいとか思わないけど、ベルトが言うから仕方なくな!」


 いやいや風を装いながらもどこかウキウキしているレン。喜んでいるのが丸わかりだ。

 俺は近くにいた店員に「これ試着できますか?」と尋ねた。「大丈夫ですよ」と営業スマイル全開で試着室まで案内され、へそ見え服を持ってきてなんの違和感も持たずレンに渡してくれた。

 側から見てレンは完全に女の子に見えるみたいだ。レンもレンで、なんの疑問も持たず服を店員から受け取っていた。もうこれ女の子確定だろ。

 レンは試着室に入ってカーテンを閉めた。

 少ししてカーテンが開き、へそ出し服を身に纏ったレンが姿を見せた。

 何故か耳にかけられた髪。凶暴なまでのでっかいお乳は服をを今にも裂かんと言わんばかりにパツパツにさせ、ショートパンツから伸びる太ももは引き締まったくびれからは想像もつかないほどムッチリしており、筋肉質だったあの頃の名残は一切感じない。

 

「ど、どうかな…」


 レンは頬を赤く染めながら恥ずかしそうに聞いてきた。

 俺は上から下を舐め回すように眺め、床に脱ぎ捨てられているサラシ代わりのコルセットを見た。わざわざ脱いだみたいだ。

 次に下腹部を注視した。レンはメイドのように綺麗に両手を重ね下腹部の前に添えるように位置させていた。


「どうせだから隠さないで見せてくれないか?」


 なかなか下腹部を見せてくれないかレンに焦ったくなった俺は直接的に頼んだ。

 最初から剣の稽古とか服屋とか来ず、直接頼めば良かった。


「そ…そんなに見たいか…。お…男の僕のお腹なんて…」


「うん。めちゃくちゃ見たい」


 俺は即答した。

 レンの顔がより一層赤くなった。


「本当の、本当に見たいか?どうしても見たいって言うなら────」


「マジで見たいから早く見せて」


 言いかけるレンを遮って俺は急かした。

 レンは更に顔を赤くした。赤くしすぎて首まで赤くなっていた。このままいけば体全体が赤くなりそうだ。


「じゃ、じゃあ見せるからな。気持ち悪がらないでくれよ」


 レンは恐る恐る下腹部を隠していた手を退けた。へそよりちょっと大きい赤い宝石のような綺麗な石が薄く輝いていた。


「おぉ…」


 俺は思わず唸っていた。

 「なんと綺麗なんだろうか。レンの綺麗な白い肌も相まって、ホールケーキのど真ん中に置かれた苺のようでもあり吸い込まれるような赤い瞳のようでもあり一面雪景色に燃ゆる最後の灯火のようでもある。いやどの例えもこの宝石の綺麗さに比べれば些細なものだ。例えなんていらない。この宝石にピッタリ合うのは「綺麗」というたった一つの言葉だけだ」

 納得したように俺は二度頷いた。


「ば!ばか!な、なに恥ずかしいこと言ってんだ!このばかベルト!」


「え?もしかして口に出てた?」


 顔から蒸気を発生させながらレンが頷いた。

 そんなレンの感情に呼応するかのように下腹部の石は輝きを見せた。妖しい輝きを放つ石に俺は目が離せなかった。誘われるように右手が伸びていた。


「ダメだ。触っちゃダメだ」


 レンは震える声でそう言いながらも、下腹部を触って欲しそうに突き出していた。

 石に魅せられた俺は空返事しながら、石にそっと触れた。すると石は一層輝いた。


「押すなよ。絶対に押すなよ…。絶対の絶対のぜーったいに押すなよ」


 レンが潤む瞳で訴えかけてきた。まるで押して欲しそうに下腹部を膨らませたり凹ませたりして俺の指が当たるのを楽しんでいた。

 そう言われたら押したくなるのが人の性。ポチッとな。

 ボタン感覚で俺は押してすぐに手を離した。すると下腹部の石は沼に落とした物のように体内へグググッと押し込まれていき、やがて完全に埋もれた。石があった場所にはハート型の痣ができていた。

 アレ、確か下腹部の石が体内に入れば女の子確定だっけ?あ、これ俺がやらかした感じか?


「なんか石、体の中に入っていっちゃったよ」


 俺は恐る恐るレンの顔を見た。レンは虚な目で俺を見つめながら


「ばかぁ…。僕は男なのに…。僕は男なのに…」


 と、鼻息荒くしながらうわ言のように繰り返していた。

 そんな俺たちのもとに店員が駆けつけてきた。


「あのー、すみませんお客様。店内でそういったことはおやめ下さい」


 店員は困り顔で俺たちを注意した。別に如何わしいことをしていたわけじゃないが取り敢えず謝り、レンが試着していた服を買い、心ここに在らずのレンの手を引いて店を出た。

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