第2話
悪魔を倒した功績を認められ我らがパーティはAランクに昇級した。
Aランクに上がれば俺もモテモテになって爛れた生活を送れると思っていたが、特に変化はなかった。いつも通り、寝坊しクエストをこなしてまた寝る。女なんて一切寄り付かなかった。
変わったことといえば、レンの様子が最近おかしいということぐらいだろうか。妙に他所他所しく接してくるかと思えばやたらボディタッチをしてきたりもする。大きく何か変わったってわけじゃないが何処かに様子がおかしいのだ。もしかしたら先の一件で何か思うことでもあるのかもしれない。
思い悩めばいつかタイミングを見て俺に相談してくるだろ、と俺は楽観的でいた。
そんなある日、お昼時までいびきをかきながら寝ている俺の元に誰かが来た。その人はゆさゆさと優しく俺を揺さぶった。
「おい、ご飯ができたぞ。起きろ」
いつも起こしに来るレンとは違った高い声。まるでお母さんの子守唄のように優しい声音だった。
アリアともメリーとも違う女の人の声に俺はびっくりして飛び起きた。俺の部屋には女の人などどこにも居らず、代わりにベットの上にペタンと薄手のシャツを着たレンが座り込んでいた。
「あれ?レンか?おはよう」
あまりのモテなさ具合に、都合のいい夢でも見てしまったか。変な寝言とか言ってないといいけど。
俺は寝起き一発目の欠伸をし、もう一度眠りにつこうとした。
「おはよう。ご飯できてるから冷めないうちに食べに行こ」
が、すぐにまた飛び起きた。
レンの声が俺を起こした女の人の声そのものだったからだ。
裏声か?びっくりしすぎて完全に目が覚めた。どんな目覚ましよりも効果抜群だ。
「レン声どうし───」
言いかけた途中、さらに衝撃なものが目に入り、目玉が飛び出すほど俺は驚愕した。
レンの胸がほんの少しふっくらと膨らんでいた。薄手のシャツの下で膨らんでいるそれは窮屈そうにしていた。
俺は飛び出した目玉を戻しつつ、鏡でも磨くように自分の目玉を擦った。濁った俺の欲求がきっとレンをそういうふうにみてしまっているんだ。
カッと俺は目を見開き真実を直視した。やはり胸は膨らんでいる。
「おい、さっきから何をしているんだ?」
俺の奇怪な行動にレンは首を傾げた。
その微かな動きだけでも胸はぷるんと揺れ、僅かな膨らみでも揺れる物だなと俺は感心した。その窮屈なシャツという檻から出して思う存分暴れさせてあげたくなった。
「レン、お前なんか胸膨らんでね?」
レンは顔を耳まで真っ赤にし女の子みたいに胸を覆い隠した。
「大胸筋かなぁ…。最近鍛えているからな…」
レンはしどろもどろになりながら答えた。
大胸筋ならそんなふうに隠す必要なくない、と言いそうになったが何故か躊躇われ既のところで言葉を飲み込んだ。
「大胸筋かぁ…。そっか、大胸筋なんだなぁ。ところでさ、声はどうした?」
「え!僕の声、もしかして変?」
レンは口臭を気にする乙女のように口を両手で押さえた。その際、腕で胸がギュッと寄せられ見ずにはいられなかった。大胸筋というにはあまりにも変形自在で柔らかそうすぎる。
「いつもより高い気がするぞ」
「うそっ!」
一際大きな声で驚愕すると、「あー、あー」と調整するように低い声を何度か出し始めた。
「あー、あー、僕はレンです。冒険者をやってます。これ、いつも通りの声かな?」
可愛らしく首を傾げて聞いてくる。
なんで今日はいちいちこんな女の子っぽい仕草なんだ。
「いつも通りだと思うけど…」
というかなんでそんないきなり身体的変化が訪れたのかを聞きたいが、セクハラにあたるかもしれないし、なかなかどうしてこれ以上は踏み込み辛い。やっぱり人間色々あるからね。
「よし。じゃあご飯にしよ。今日は僕が腕によりをかけて作ったんだ」
レンはグッと俺の腕を引っ張ってベットから引っ張り下ろした。そのまま恋人のように腕を組みながら俺の部屋を出た。妙に近い距離感に謎の危機感を感じた。
「レンが飯を作るなんて珍しいな」
「ちょっとつくりたくなって。あ、ちょっと待って。先に行ってて」
レンは俺の腕から離れると自分の部屋に入って行った。
俺は先に暖炉の前まで行った。暖炉の前には大きなテーブルがあって、一人用のソファがふたつあと三人掛けのソファ一つ、テーブルの暖炉側以外を囲むようにして配置されている。
俺は定位置としている一人用のソファに腰をかけた。
テーブルの上には二人分の食事が三人掛けのソファの前に並べられていた。ほとんど生焼けの塊肉からは微かに湯気が出ていた。もう少し焼いた方が俺的には嬉しいが…。
「お待たせ。もしかして先に食べちゃったか?」
レンが来て三人掛け用のソファに座った。何故か胸の膨らみがなくなっていた。
「おい、逞しい大胸筋はどうした?」
俺は純粋な疑問をレンに投げつけた。決して、レンの大胸筋に多大な興味があったわけじゃなく本当に純粋で無垢な疑問だ。
「ぼ、僕の大胸筋なんかどうでもいいだろ。第一、ベルトは男の胸なんか興味ないだろ。そんなことより早くご飯にしよう。ほら、こっち座って」
レンははぐらかしトントンと隣の席を叩いた。
気になってしかたなかったが、あまり追及せず俺はレンの横に座った。
「いただきまーす」とレンが手を合わせたので俺もそれに倣った。フォークで肉をブッ刺し齧り付く。柔らかくジューシーだが、やっぱりもうちょっと焼いて欲しい。
「どうだ。美味しいか」
身を乗り出す勢いでレンは聞いてきた。
「ちょ、近い近い」
レンの吐息が俺の頬にかかった。生暖かい吐息に鳥肌がたった。
いくら女の子っぽい仕草をしようが野郎の甘い吐息はごめんだ。
「ごめん。気持ち悪かったよな」
「うん。普通にな」
俺が素直に言うとレンは酷く落ち込んだ。
こんな落ち込むことある?今まで散々お互いに罵声を浴びせあった仲なのに?俺悪くないよな?だって相手は男だぜ。普通にキモイだろ。
取り敢えず料理を褒めちぎってなんとか機嫌を直してもらった。
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