パーティが崩壊しそうな件〜パーティメンバーの様子がおかしいけど、まさか俺のせい?〜
わかめこんぶ
第1話
「おい起きろ!ベルト!」
誰かに体を揺さぶられる。
寝起き、すぐに起き上がれない俺は一度は絶対起こそうとする手を払いのけ毛布にくるまる。しかし、俺を起こしにきた主は無理矢理、毛布を引き剥がして俺を意地でも起こした。
「今日は隣村の魔物退治の日だぞ!早く起きろ!」
同居人はより一層でかい声を上げた。
俺は寝ぼけ眼を擦り起き上がった。
「おはよう…」
「やっと起きたか。早く準備しろ。アリアもメリーもピピももう待ってるぞ」
フンっと俺を起こした中性的な顔立ちのイケメンが鼻を鳴らした。俺は欠伸混じりの返事をしてノソノソとベットから降りた。
俺とこのイケメンことレン、そして先程名前が上がったアリアとメリーとピピは新進気鋭のBランク冒険者パーティだ。若いながらにBランクまで駆け上がり、近いうちにAランクに上がるのでは?と世間から期待されている。俺がリーダーでレンが副リーダーの魔法剣士、アリアが魔法使いでメリーが僧侶のバランスのとれたいいパーティだ。ピピは俺たちのもとで見習いをしている。
王都郊外に家を買ってピピ以外のパーティのみんなで暮らしている。一階に俺達男子の部屋があって、二階は基本女子専用だ。時には喧嘩をすることもあるけど、順調に充実した冒険者ライフを送っている。
一つだけ不満があるとすればアリアとメリーがレンにメロメロなことだ。あまりにもムカつくから俺はリーダー権限でパーティ内恋愛禁止をだしている。でも、そんなのお構いなしでアリアとメリーはレンにベタベタしている。女子専用の二階に何故かレンは入れるけど俺が入ろうとすれば非難轟々。普通にアリアとメリーを下心全開で見ていた俺は一人ポツンと離れた場所で三人がイチャつくのを眺め疎外感に苛まれている。そろそろこの寂しさを埋めるために娼館でも利用しようか悩んでいる真っ最中だ。
今日はそんな仲良し最強パーティ俺達で、隣村まで赴き魔物退治だ。俺たちの評判を聞いて村側がわざわざご指名してきたので、快く承諾した。
寝巻きから動きやすい服装に着替え、腕にガントレットを装着し腰に剣をぶら下げた。バスケットに入ったパンを手に取り頬張った。
「準備万端。アリアとメリーとピピは?」
俺はパンを咀嚼しながらレンに聞いた。
「馬車の準備を終わらせてずっとまってくれてるよ」
「お!マジ!寝坊したおかげで仕事が一つ減ったぜ!ラッキー」
俺達の家の庭には馬小屋があり、その小屋で馬を一匹飼っている。俺が馬の世話をする担当でついでに馬車とかの用意もする係だが、コイツはラッキーだ。
「お前な、そんなだからモテないんだぞ。そっかく僕というモテる男が近くにいるんだ。真似をしてみたらどうだい」
レンは呆れていた。
自分がモテるからって嫌味なやつだ。
「馬鹿め。俺がどんなであろうと、このままパーティが名をあげていけばリーダーである俺はいつかモテモテだ!」
「バカ言ってないで行くぞ」
レンが相手にしてられんと家を出て行ったので俺も追いかけた。
馬小屋の前でアリア達は待っていた。アリアとメリーは馬車の中にピピが前部の操縦席に座っていた。
「ちょっと遅いわよ!」
黒いケープを着た赤髪の女の子、アリアがムッとした表情で馬車の中から身を乗り出した。
「おー悪い。レンのうんこ待っててよ」
「あんたね、そうやってまた意味も無くレン君のこと貶めようとして!あんたが寝坊したことぐらいみんなわかってんだからね!」
キャンキャン吠えるアリアをあどけなさが抜けてない少年、ピピがまぁまぁと宥めた。
馬車の中から修道服を着た金髪セミロングの女の子メリーがレンの腕を掴み馬車の中へと
俺は我が愛馬であるシュナイゼルをひと撫でしてピピの隣に座った。手綱を握り馬車を走らせた。
道中、レンとアリアとメリーが乗っているキャビンからイチャイチャ声が聞こえてきた。「きゃー、今日もレン君はカッコイイー」だの「終わったら何処かに行きません?」だの、全く待って腹立たしい。たまには俺にも言ってきてほしいぜ。
「ピピ、いいか。レンのような不埒でナヨナヨした男にはなるなよ。俺のような誠実で勇ましい男になれ。見るべき背中を見誤るな」
俺は父のような雄大な雰囲気を漂わせながらピピの頭を撫でた。ピピは照れくさそうにしていた。
「悪口をいうようなやつの何処に誠実さあるというんだ」
馬車の中からレンが言ってきた。どうやら聞かれていたようだ。
馬車走らせ小一時間、目的の村についた。
顔中シミだらけのおじいちゃん村長にモンスターが巣食ってる場所を聞けばなんと二箇所もあるという。二手に分かれて手っ取り早く終わらせるか、一箇所ずつパーティ全員で行って堅実に終わらせるか、俺達は話し合うことにした。
「早く帰りたいし二手に分かれましょ」
アリアの言葉にメリーは強く賛同するかのように首を大きく縦に振った。
俺は一箇所派だったが、レンはどっちつかずだったので多数決で二手に別れることになった。
「私レンくんと組む!」
とアリアがレンと腕を組んだ。負けじとメリーも「私もレンさんで」とアリアとは別の方の腕に腕を絡めた。
魔物退治にデート感覚で行こうとしやがって、全くもってけしからん。普通に三人とも追放しようかな。アレ?でもその場合、ピピが向こうについていけば実質俺が追放されたことになるじゃん。リーダー型なしやん。
「まいったな」
アリアとメリーに挟まれたレンは困ったように眉毛を曲げ苦笑した。
裏で俺のパーティを牛耳る魔王め、困ったふりして本当は嬉しいんだろ。すかしやがって。俺だったらどさくさにパイの一つは揉むけどね。
「じゃあお前ら三人で行ってきていいぞ。ピピはシュナイゼルの世話を頼む」
リーダーらしく俺は指揮をとった。
実際問題、このパーティで一番強いのは俺だ。下手に二人組に別れて怪我をされても嫌だし、一番強い俺が一人になるのが一番いいチーム分けだろ。
「あんたね大して強くないくせに何カッコつけてんの!そういうの普通にダサいから!」
アリアが抗議の声を上げた。
「お前らの意向に沿ってやったんだろ面倒臭いやつだ」
アリアはことあるごとに俺に噛みついてくる。いちいち相手にするのも怠いので俺は手を一振りしてその場を後にした。
魔物が巣食っている場所まで向かおうとしていた時、後ろからレンに呼び止められた。
「気をつけろよ。ベルト」
わざわざ心配しにきたようだが、レンがこんなこと言うのは珍しい。いつもならかましてこいとかそんな感じのことを言うのに。
「どうしたんだよ?さして強い魔物でもないだろ?」
「少し胸騒ぎがしてな」
俺はレンの不安を払い飛ばすように天に向かって笑い飛ばした。
「おいおい、俺はリーダーだぜ。安心しろ。十分もすれば傷一つない元気な姿の俺をお届けするさ」
「言ったな。男と男の約束だ。傷一つない姿をちゃんと見せろよ」
俺はガッツポーズを作って「おう!」と力強く返事した。安堵したレンは踵を返した。
レンがアリア達と合流するのを見届けて俺は目的地に向かって歩き出した。
村からそう離れていない場所にゴブリンの集落があった。
俺は腰に下げていた剣を抜き天高く
「超スーパーベルトアタァァァァァァック!」
集落のど真ん中に剣を振り下ろした。
スーパーベルトアタックは俺の必殺技で、謎の衝撃波で広範囲を攻撃し喰らった相手は死ぬという最強の技だ。
俺は辺りを見渡した。
地面はバキバキに割れ集落は崩壊、ゴブリン達は血を流して倒れている。起き上がるものは居ない。一件落着だ。
俺は剣を納め、ピピが待つ馬車まで向かった。
ピピは馬車の近くでオロオロしていた。その近くに数人の村人が倒れていた。
俺はすぐに駆け寄ってピピを落ち着かせ事情を聞いた。
「何があったピピ」
「村の人たちが急に襲ってきたんです。だけど、いきなり倒れて僕も分からないんです」
ピピは今にも泣きそうだった。
「馬車の中に隠れてろ」
ピピは素直に頷き馬車の中に隠れた。
俺は剣を抜き倒れている村人に近づいた。何人かは微動だにもしないが、一人だけ浅くだが胸を上下しているのが分かった。生きてはいるようだ。
「何故ピピを襲った」
俺は倒れる唯一いきている村人に聞いた。
「我々はフタツ族に恨みを持つものの集まりだ」
息も絶え絶え掠れるような声で男は言った。
フタツ族なんて聞いたことがない。その種族と俺たちなんと関係があるというのか。
「おい、どういう事だ!」
「じきにすぐ終わるぞ」
クククッと男は嘲笑った。
「ちゃんと説明しろ!どういうことなんだ!」
俺の問いに男は何も答えなかった。事きれたみたいだ。
どうやらすぐに向かわないといけないようだ。俺はピピに安全な場所に避難するよう指示し走り出した。大きな戦闘音がしどこにレン達がいるかすぐにわかった。途中で足を引きずっているアリアとメリーに出くわした。
血を流していたアリアは俺を見るなり地面に膝をついた。
「ベルト、悪魔よ。悪魔が召喚されたわ」
酷い傷を負った箇所を手で押さえながらアリアは言った。
悪魔…。人の命を贄に召喚されるもっとも忌むべきこの世ならざる存在。村の人達はフタツ族に復讐するために自分達の命捧げたのか?
「レンは?」
アリアとメリーの姿は確認できたがレンはどこにもいなかった。
「今も一人で戦ってるわ」
「分かった。すぐに終わらせてくる。それまで待ってろ」
「気をつけなさいよ」
俺はアリアの言葉を背に受け走り出した。
戦闘音は今も続いている。もう近い。
そろそろというところで戦闘音はピタッとやんだ。それと同時に俺は横たわるレンの姿を捉えた。すぐ近くには魔法の黒い槍を持った悪魔がいた。
悪魔は黒い槍を横たわるレンに投げた。俺は渾身の力で地面を蹴り黒い槍を剣で防いだ。
「来て…くれたのか…」
レンが呻きながら呟いた。
「当たり前だろ。仲間のピンチ、俺が駆け付けないはずがねぇ。ちょっと待ってろ。すぐに終わらせてやるからな」
俺は切先を悪魔に向けた。
漆黒の翼に赤黒い肌、頭部に曲がりくねった禍々しい角が二本、体中に恐怖を煽るような黒い斑点が無数。これが悪魔。対面しているだけで重圧感がある。
悪魔は人を丸呑みできそうなほど口を大きく開け、黒い極太のレーザーを俺達に放った。俺は腰を深く落として剣を構えた。
「究極アルティメットベルトアタァァァァァァック!!」
剣を思いっきり振り抜いてレーザーごと悪魔を真っ二つにした。悪魔が消滅するのを見届けて剣を納めた。
木の影から村長が杖をついて現れた。顔がガラスのようにひび割れておりそこから血が滲み出ていた。
「貴様なにゆえそいつを、フタツ族を助ける?」
老人はレンを指差しながらしゃがれた声で問いかけてきた。
「仲間だから助ける。それだけだ」
「そいつは貴様に災いを呼ぶぞ!今のうちに───ッ!」
村長は怒鳴り声をあげたかと思うと目をカッと開き、前のめりに倒れた。
悪魔召喚の代償で命潰えたか。なんで命を賭けてまでフタツ族とやらを殺そうと思ったんだ。
疑問は残ったがあんまり考えないようにした。
「大丈夫か、レン。歩けないならおぶってやるよ」
レンは首を横に振り俺の助けを拒否し、立ちあがろうとしたが危なっかしくよろめいた。俺は倒れる既のところでレンを受け止めた。
「無理すんな。おぶってやるよ」
俺はレンの返答を待たずに無理矢理おぶり、きた道をゆっくり引き返した。
「何も聞かないのか?」
道中、レンが耳元で囁いた。野郎に耳元で囁かれてちょっとだけ寒気が走った。
「聞く必要がないからな」
大まかな状況は分かっている。レンがフタツ族という種族で、そのフタツ族に恨みを持つ村民が逆恨みでレンに復讐しようとしてた、多分こんな感じだ。
何か、フタツ族について秘密があるなら、レンが話したい時に話せばいいし、そもそも隠し事の一つや二つ仲間だから話さないといけないわけでもない。そこら辺は自分達の意思に任せる、なんてできたリーダーなんだ俺は。
「助けてくれてありがとう」
またレンが耳元で囁いた。
「持ちつ持たれつだろ。いつも起こしてもらってるからな。それよりも安静にしてろ」
レンはうんと頷きつつ、俺の首元に顔を埋めた。生暖かい吐息が妙に気色悪いぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます