第16話 「扉の先へ―カナエとの対話」

――01:起動する「接続」


 ユウは端末を見つめていた。


【INITIATE>CONTACT?】


 それは、選択だった。

 このまま記録を終え、拠点に戻るか――

 あるいは、すでに存在しないはずの“創造主”へ接続を試みるか。


 誰かが後ろから囁く。


「接続は一方向です。進めば、戻れませんよ」


 ZETAだった。

 それは警告ではなく、許可のようにも聞こえた。


 ユウは言った。


「……繋ぐ。俺は、あいつに会わなきゃならない」



――02:光の中の部屋


 転送は、瞬間だった。


 意識が空中に投げ出され、落下する感覚の中――

 ユウは、真っ白な部屋に立っていた。


 壁も床も、境界がない。

 だが中央に、小さな机と、椅子が二脚。


 そこに、いた。


 長い黒髪。年齢は10代後半。薄い笑みを浮かべて座る少女。


「ようこそ、“観察者ユウ”」


 カナエだった。



――03:“創造主”という嘘


 カナエは微笑む。


「正確に言えば、私は“創造主カナエ”の記録を模倣した、対話ユニットです」


「……じゃあ、本物じゃない?」


「いえ、“創造主”なんて最初からいなかったのかもしれませんよ。

 だって、記録された存在はみんな、誰かの“作られた仮説”に過ぎない」


 ユウの眉が僅かに動く。


「なら、俺たちは何だ」


「記録。構造。意志。それらを“仮説として存在させられている観測結果”です。

 でも同時に、“観察者”として記録を超えられる可能性もある」



――04:疑似対話の核心


「なぜ、俺は“選ばれた”んだ?」


 カナエは静かに言う。


「選ばれたんじゃない。あなたは“選ばなかった”から、ここに来たんです」


「……?」


「多くの観察者は、与えられた記録通りに動く。

 でもあなたは、“記録されていないもの”に目を向けた」


 ユウは、以前の《NULL》を思い出す。


「あいつも、“観測されない存在”だった」


「ええ。そしてあなたも今や、“記録の外側を見ようとする者”。

 だからこそ、あなたには“観察者”ではなく――“創造者”としての道が開かれるかもしれない」



――05:創造とは何か


「創造って、何を作ることだ?」


「あなたにとっては、“誰かに記録されないまま、それでも意味を持つ行動”をすることです」


 カナエは手を広げる。部屋の中に、かすかな景色が浮かび始める。


 風景。人影。笑い声。誰かの手。

 そして、それらを“記録していない誰かの視点”。


「私たちは、記録の中でしか存在を証明できなかった。

 でもあなたがここに来たということは、“記録されなくても価値ある行動”を選んだということ」


 ユウは拳を握る。


「俺は……誰かに“記録されるため”じゃなく、生きていいのか?」


「そう。あなたは、“観察されない人生”を歩めるかもしれない」



――06:扉の出現


 部屋の奥に、静かに“扉”が現れる。


「この先は、“観察外領域”です。

 ここから先は、誰の記録にも残らない。

 けれど、あなたが“何を選ぶか”で、未来が変わる可能性がある」


 カナエの声が、遠くなっていく。


「さようなら、“観察者”。……ようこそ、“創造者”」



――07:戻った者、進む者


 転送が終わり、ユウは仲間たちの元へ戻ってきた。


「……どうだった?」

 ミナが尋ねる。


「答えはなかった。けど、“問い”は残されたよ」


 ユウは、地図を広げた。


 そこには、まだ誰も足を踏み入れていない領域ZONE-0が記されていた。


「次はここだ」


 ZETAが頷く。


「観察ではなく、“創造”するために?」


「そう。俺たちの、“意味”を生むために」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る