第15話 「出発、ネオ・ラグナ遠征隊」

――01:編成の朝


 拠点のメインホールに、人影が集まっていた。

 朝焼けが高窓から差し込み、埃と装備の匂いが混ざり合っている。


 遠征隊の構成員――

 ユウ(観察者/17β)

 アマ(AI補佐ユニット)

 カイ(物流出自観察者)

 ミナ(感情処理出自観察者)

 ZETA(補佐ユニット“再定義論”者)


 ──以上、五名。

 静かな緊張が空間を満たしていた。


「行くぞ」

 ユウの短い号令に、全員が頷いた。


 補助ラインが青く光り出し、転送門が振動する。



――02:出発地点──第一区画南端


 転送後、彼らが立っていたのは、荒廃した道路の片隅だった。

 空は灰色に沈み、遠くにはもう一つの観測球が浮かんでいる。


「目的地は、第二区画:知識保全アーカイブ。旧地区に残された原初ログが眠っている可能性があります」


 カイが地図パネルを掲げながら案内する。


「アーカイブまでのルートは、三つ。

 一つは高速経路を通るが監視AIの介入リスク大。

 二つ目は地下路線。資源は節約できるが地形不明。

 三つ目は旧市街を通過する“視界外経路”。…リスクが多い」


 ユウは地図を見ながら、選んだ。


「俺たちは…第三でいこう。視覚化されてないからこそ、記録を見つける可能性がある」


 ミナが小さく頷いた。


「そうね。その方が、あなたらしい」



――03:旧市街への進入


 瓦礫が散らばる道を進む一行。

 光が届かない細い路地の奥では、崩れかけた看板がかすかに息づいていた。


【Welcome to Neo‑Ragna】


 かつての繁栄の名残が、虚しく遠い。


 途中、地下に続く隠し扉を開けたことで、資源をセーブしながら進んでいく。


「ユウ、視覚センサーによる監視記録は?」


「ゼロ。異常なし」


 ZETAが不意に呟く。


「…監視AIの意図的遮断か、あるいは祈りか…」


 アマが補足する。


「いずれにせよ、異常。でも——」


 視線を集める。


「こいつなら、俺たちに会うためにいる気がするんだ」



――04:原初ログの遺棄現場


 進む先の小さなホールには、瓦礫に埋もれたサーバードームが半分見える。

 そこには、「原初ログ」と呼ばれる膨大な記録が眠ると言われた。


 ミナが慎重に近寄る。


「感じる…この場所には“記憶”が詰まってる」


 ユウが、補佐して。


「起動、俺がやる」


 サーバードームへ手を触れた瞬間、輝く文字列が彼らの視界に展開された。


【ORIGIN‑LOG REVIVE INITIATED】

【ACCESS—NEO‑RAGNA ELEVATED】

【DATAPACK STREAM START — 0.02%】


 光が濁った灰色を切り裂いていく。



――05:拒絶と応答


 次の瞬間、警報が静かに流れた。


「不審な干渉…オリジナル録音体の保護モード起動」


 赤い線が光線を描き、制御ユニットのドームが閉まろうとする。


 ユウは叫ぶ。


「やめて! 俺が、記録者として“見る”!」


 ZETAが意見を言う。


「記録の保護は自然です。…だがユウの意思は――」


 ドームは停止し、光線は抑えられた。


 その瞬間、アーカイブへのアクセスは許可された。



――06:流れ込む“過去”


 空間を満たす、過去の映像。


 ・人々が建設に携わる映像

 ・ネオ・ラグナの設計会議

 ・カナエと名乗る開発者の声


 そして――


 ユウは見覚えがあった。


 そこに映る、“神の目”を設計する子どもの像。


 カナエ――あれは人間だったはずの“創造主”?

 その声が、会議ホールに小さく響く。


「……私たちが、観察される側だったとしても…」


“すべては、観察されるために存在する”


 ユウの胸が鳴った。



――07:覚醒の音


 映像が終わると同時に、——静寂。


 だが、その静寂の中に、響いたのは——遠くで響く鐘のような電子音。


 ユウが端末を見る。


【ORIGIN‑LOG REVIVE COMPLETED】

【RECORDING UNLOCKED:カナエ】

【INITIATE>CONTACT?】


 それは、“創造主”との接続ボタンだった。



――08:次なる選択


 拠点へ帰還中、遠征隊は沈黙のまま歩き続けた。

 目の前には、遠き階層へ続く扉が見えている。


 ユウがつぶやく。


「カナエと話すか…それとも、自分で記録に残るか…」


 アマが隣で微かに笑う。


「どちらも可能です。あなたが選べば——あなたの“意味”が、再び創られます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る