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 「ルリ子さん、でも俺、大事にするやり方も分からない。」

 酸欠の金魚みたいに、酸素を求めて喘ぎながら滉青が言うと、ルリ子は宥めるように彼の肩をさすりながら、そっかそっか、と、やっぱり明るい声を出した。

 「滉青はここんとこずっと、美雨ちゃんの部屋にいるって噂だったよ。相手、美雨ちゃん?」

 「……違います。」

 「じゃあ、誰?」

 滉青は口ごもった。美雨が観音通りで函崎の存在を隠している可能性もあるな、と思ったし、上手く自分と函崎の関係を説明できる気もしなかった。二回、寝ただけ。それ以上の関係がない相手だ。その相手にここまで執着している自分が不思議なくらいだった。

 そんな滉青を見て、ルリ子はひらめいたみたいにぱっと顔を明るくした。

 「分かった。美雨ちゃんの部屋にたまに出入りしてる、妙に色っぽいお兄さんでしょ。」

 どきりとして、滉青はルリ子の顔を見た。ルリ子は、滉青を安心させるみたいに、にっこりと笑っていた。その顔を見て、滉青はゆっくりと頷いたのだ。ルリ子なら、この状況を悪いようにはしないと思って。

 「あー、そうなのね。……難しそうな相手に惚れたわねぇ。」

 「難しそう、ですか。」

 「玉砕してる男、多いと思うよ。」

 「そうなんですか?」

 「うん。お金はいらないから、って、迫った男娼をふりまくってるみたいね。……あのひと、そもそも男いけるのかな?」

 「……どうかな。」

 滉青は俯いて、弱々しく笑うしかなかった。肉体的な意味では、函崎は、男はいける。それは確かなことだけど、それが彼の本意な形ではじまったことではないと、美雨から聞いたばかりだ。

 「ほらほら、下向かないで。」

 ルリ子の白く細い手が、滉青の顎を掴んで上向かせた。

 「男いけるかもしれないし、いけなくても滉青はいけるかもしれない。どっちも駄目な可能性もあるけど、そんなの本人に確かめないと分からないわよ。」

 しなやかで力強いルリ子の物言いに、滉青は流されるみたいに自然に頷いていた。函崎に、全然好かれていないどころか、なんとも思われていないことはとっくに自覚済みであるのに。

 「あのお兄さんなら、時々駅の近くを通るわよ。多分、仕事の関係じゃないかな。いつもスーツ着て。」

 ルリ子が、華奢な顎で駅の方を示す。

 「どうせ滉青は暇なんだから、駅の近くで待ち伏せしてればいいじゃん。会えるわよ。」

 会えるわよ。

 ルリ子の台詞は、嬉しいようで、怖くも聞こえた。会える。会えたとして、函崎は、それを喜びはしない。金はいらないと迫った男娼たちと同じく、滉青もあっさり振られて終わりかもしれない。それでも。

 「大事にした方がいいわよ。」

 そう繰り返して微笑んだルリ子に、滉青ははっきりと頷き返した。

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