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それから滉青は、美雨の部屋に住みつくことになった。美雨はまず間違いなく、それを望んではいなかった。それでも、行くところがない、と言った滉青を追い出しはしなかった。
行くところは、本当はいくらでもあった。常に何人かのおんなをキープしておくのが滉青の習性だったし、そもそも美雨に誘われる前は、他のおんなの家に転がり込むつもりでいたのだ。
それでもそんな嘘をついた理由を、滉青はただ、面倒だったから、と、自分に言い聞かせた。適当なおんなを探すのが、なんだか今は、面倒なだけ。そう何度も何度も言い聞かせたから、函崎について、美雨に訊くことなんかはできなくなった。函崎に興味があるからここにいるなんて、認めるわけにはいかないと思うのは、おんなたらしのヒモとしての、なけなしのプライドだった。些細なプライドだとも思うけれど、そのプライドさえ捨ててしまったら、もう自分の形を保っていられなくなるような気もしていた。
美雨は、これまでの宿主とは少し違っていた。それはそうだろう。彼女は滉青を好きなわけでもないし、滉青を引き留めておきたいわけでもない。貢いだり、世話を焼いたり、わがままを言ったり、身体を求めたり、そんなことをする意味がない。ただ彼女は、夕方観音通りに出かけ、朝方帰ってきて眠り、昼ごろ起き出してはスーパーの惣菜を食べ、夕方観音通りに出かけた。滉青は、観音通りに出かけて行く美雨を見送り、朝方まで眠り、起きだした美雨とともに食事をとり、夕方美雨を見送ってまた眠った。
食事は、いつも床の上に直接惣菜のパックを置いて行われた。それが嫌になったわけでもないのだが、唐突に思い立った滉青は、美雨が観音通りに出かけた後、部屋着のスウェットのままで、近所のリサイクルショップに行ってみた。店をのぞいてみると、丁度いい、シンプルで部屋の邪魔にならないような、白いテーブルがあったので、それを買って帰った。部屋の真ん中にテーブルを置いてみると、食器があればもっといいのに、という気になってきたので、今度は百円ショップに行って、少しの食器とクッションを二つ買った。それらを部屋にセットしてみると、なんだか満足な心持になって、滉青は何度か頷いた。そして、床に直接物を置いて食べるのは、自分が幼い頃の生活と同じだったのだな、と、ふと思い出した。暴力をふるう父から逃げ出した母は、家具も買えなかったので、床に直接惣菜のパックを置いて滉青に食べさせた。
別に、それを思い出してテーブル類を買ったわけではない、と、滉青は思う。実際、それを思い出したのは、テーブルも食器もクッションも揃え終わって、その後のことだ。
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