7
美雨の寝息が、すやすやと部屋に流れる。滉青は硬直したまま黙りこみ、函崎は唇を笑わせたまま、滉青のほうに身を寄せた。他愛もなく、肌が触れる。
「脱がせてよ。」
甘えるようでも、命じるようでもなく、ごく自然に函崎がそう囁く。滉青は、しばらく固まっていたけれど、やがてそっと、ごく慎重に、美雨に掴まれていた右手をほどいた。そして、函崎のワイシャツのボタンを外す。露わになっていく肌は白く、性別を感じさせない。滉青は男を抱いたことがあった。宿が必要なときに、近くに男しかいない場合には、ごくたまに。だから自分が両方の性別を性的に相手にできることは分かっていたけれど、仕事以外で、つまりは義務ではなく、誰かの肌に触れたいと思ったのは、記憶にある限りこれがはじめてだった。そのせいだろうか、未経験の子どもみたいに、じりじりと指が焦げ、微かに震える。
その指をじっと見下していた函崎が、滉青を見上げて、軽く眉を上げて見せた。意外。そんなふうに言いたいのだろう。滉青だって、自分が性に関するモラルが高いタイプに見えないことくらいは承知だった。それに函崎は、滉青が数時間前に美雨を抱いたことだって、知っている。
なんだか、自分がみじめな感じがした。
滉青は、自由が利きずらい指で、それでもボタンを外しきった。そして、焦ったみたいに函崎の痩せた肩からシャツを落とす。そこまでの動作が終わると、函崎は、できの悪い生徒をほめてやる教師みたいな態度で滉青の髪を撫で、そして彼の服を、ひどく慣れた手つきで最低限だけ乱した。これでは、全身で函崎の肌に触れることはできない。滉青は一瞬抗議したいような気にすらなったけれど、背中を向けたベッドには、美雨が眠っている。函崎は、そんな滉青の心理さえ読んだみたいに平然と笑って、彼の膝の上に乗る。
あ、と思った。これは、完全に函崎にもっていかれる。すべてが彼のペースだ。
「俺が、」
俺がする。
そう言い終わる前に、函崎は商売女みたいな慣れた動作で、滉青を体内に収めた。白い喉が、滉青の目の前で長く仰け反る。そのさまを見て、滉青は確かに性的に興奮した。男に対しても、おんなに対しても、そんな感情は端から持ち合わせていないはずだったのに。
完全に函崎のペースに持ち込まれての性交だった。滉青は、白い蛇みたいにうねる彼の身体に手を伸ばすことさえできなかった。怖い。そんな感情すらわいて。そして、その最中、ずっと美雨の寝息は細く聞こえていたのだけれど、滉青は、起きている、と思った。美雨は起きて、この光景をじっと見ている。
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