第4話
翌日メリクが早朝ヨークの街の散策に出て宿に戻ると、主人が声を掛けて来た。
「やぁお帰り。おはよう」
「おはようございます。街の外れまで歩いて来ました。湖が綺麗ですね」
「そうだろそうだろ。ここら辺は水が綺麗なんだよ」
「天気も良さそうなので昼までに出ます。お世話になりました」
「そうかい。……結局エルシドの森を抜けて行くのかい?」
「はい」
「そうか。――あの子結局、遺跡へ行ったよ」
メリクが階段を上がろうとした足を止める。
「アレンダール王国では何か遺跡で、悪いことが起きてるんじゃないか不安に思ってる人がたくさんいるって。何が起こってるかだけでも確かめるつもりらしい」
不死者は人間よりも視野が広い。
何が起こっているか確かめるということは、もう彼らの領域に足を踏み入れるということなのだ。
(…………殺されるかもしれないな)
メリクは静かな気持ちで、しかしはっきりと、その時はそう思った。
不死者は危険な存在だ。
特に不死者についての知識を持たない者に対しては、その危険が直に及ぶことが多い。
しかし、人間の多く住む集落を不死者が突然襲う例は少ない。
多くは人間の方がちゃんとした知識を持たず、彼らの領域に踏み込んでいるのだ。
メリクはサンゴール王国の魔術学院で、知識を持たず不死者に近づくべからずということを一番最初に教えられた。
「……そうですか」
思ったが、自分の関わることではないとメリクは冷静に判断した。
小さく頷き、階段を上って行く。
「……ねぇお兄さん、今からでもいいから、あのエドっていう子助けてあげてくれないかな? 魔術師さんがいれば少しは違うだろう?」
また数段上がった所で声を掛けられ、足を止めたメリクは微笑んだ。
「魔術師はただ不死者の正しい知識を知っているだけですよ。
それに下手に不死者を倒したり封じたりすると呪いを引き受けることもあるんです。
悪いですけど、俺は見ず知らずの無謀な少年の為に自分の命を危険には晒したくない」
命を危険に晒す。
その言葉にグレンは、この若き魔術師がエルシド古代遺跡に何を感じ取っているのかを多少なりとも察していた。
ジャラ、とカウンターに金音が鳴る。
「タダでとは言わないよ。依頼ならどうだろう?」
メリクが階上から見下ろす。
カウンターに置かれた小袋に金貨が入ってる。
「それに退治じゃなくていい。彼を助け戻すだけでいいさ。どうかな? 吟遊詩人さん」
主人はにっ、と笑顔を見せた。
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