第40話 墓荒らしの代償 前編
昼食を終えてヴァルターとティッタは再びグラニに跨って小山クライネシュ・グラウへの山道を移動していた。昼食を終えて体力もついたヴァルターだったが、逆にヴァルターの後ろで鞍に跨っていたティッタは村人達からの質問攻めが中々終わらなかったので完食したにも関わらず疲れた状態だった。
「ティッタ、大丈夫か?魔力は精神力っていうだろ?少し休むか?」
この世界では魔法は火や風などを理論上好きに操る事ができる。しかし魔法を使うには自然現象がどう起きるか理解する他にも行使する為の精神力が必要である。例えば魔法で火を起こそうとするなら最低でも発火現象の理解と、その火を好きな場所で好きな時に、好きな時間に発火する為の魔力にもなる精神力を使わなければならない。
「お主、わしが疲れているのを案ずるなら昼飯の時に質問攻めにあったわしをフォローせんか・・・。まぁいざという時に魔法は詠唱か魔法円で何とかするわ。」
普通は自然現象を好き勝手に起こす事など出来ない。故にティッタも含めて殆どの魔法使いは魔法を発動する為に口から詠唱を通して魔力をその空間に広めるか、事前に書かれた魔法円に魔力を流し込んで発動するかで魔法を使うのだ。ヴァルターも休暇の度にティッタの元で魔法の修行をしたが詠唱か魔法円で風を起こすか、火を起こすかで精一杯だった。故にティッタの疲れ具合を見て少し申し訳ない気分になった。
「さっきは悪かった。村人達も悪意があった訳じゃないから止められなかったんだよ。レーズンの干し果物やるからそれで魔力つけてくれ。」
「レーズンのドライフルーツ!?わしにくれ!レーズンは好きじゃ!」
ヴァルターがティッタを元気づけようとレーズンのドライフルーツを何粒か出したらティッタがすぐさま手に取ってあっという間に食べてしまった。老人みたいに喋ったりするがやたらと甘いものが好きなのは見た目相応だとヴァルターは考えたがティッタを子供扱いすると怒られる為、敢えて口にはしなかった。本人いわく女児の姿で成長が止まっているとの事だが。レーズンを味わったティッタが辺りを見回し、真剣な顔つきで彼女に振り向いたヴァルターに向かって言った。
「ところでヴァルターよ、気づいたかのう?いままで狼や猪を見んかったか?」
「いや見てない、それどころか山中なのにヤマネコすら一匹も見かけなかった。不自然だ。」
クライネシュ・グラウへの墓参りの時、この山道では小鳥のさえずりやフクロウの鳴き声は当たり前の様に聞こえていたし、道中で猪や鹿とばったり合う事は多々あった。小鳥のさえずりさえも聞こえない今回の静けさは不気味な印象を二人に与えた。
「鳥や獣が何かに怯えている?前にこの山に侵入してきたヘルハウンドを屋敷の皆で狩りに行った時も鳥の鳴き声は聞こえてたぞ?」
「という事は・・・今回は動物も怯えるくらいの化け物か何かが来たと考えるべきじゃろう。」
果たしてその予想は当たっていた。さらに道中を進むと鹿の生首が地面に横たわっていたのが見えた。顔は骨が見える位損傷が激しく首から下は激しく食いちぎられた後があった。
「鹿の胴体がないな。魔物か何かが鹿をすぐに食い殺して胴体をどこかに運んだのかもしれないな。」
「引きずったみたいじゃのう。血の跡がくっきりとみえる。このままだと墓まで行きそうじゃが・・・。ヴァルター、準備せよ。」
ティッタの予想どおり引きずられた鹿の血痕の行き先は墓までの道のりと一致していた。段々と近づくと突然何か腐った様な異臭が二人の鼻に入り、思わず二人とも鼻を覆った。
ついに墓の入口の前にある広場に到達すると異臭の正体が分かった。3人の男達の死体がハエや蟻にたかられながら横たわっていた。腹や腕など至る所が激しく食いちぎられており判別も難しい状態だった。辛うじて分かったのは黒髪の若い小太りの男だった。
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