第39話 墓荒らし 後編

皮鎧を纏ったヴァルターはティッタを自信の後ろに乗せて共にグラニに跨り、まずは屋敷から出て行って村の方へと降りて行った。時間が惜しいので昼食は屋敷ではなく村の食堂で食べる事にした。父ヴォルフラムの死は屋敷の者を通じて村人にもすでに通達されたので、村人達は新領主とめったに見ない噂のエルフの寒い中の突然の来訪に驚いたが歓迎はされた。村役人達から積もる雪のせいで暇を持て余した村人達の為にも早速ヴァルターの領主就任祝いの宴を開こうと提案したがクライネシュ・グラウの小山に墓参りに行く為、夜にしようとヴァルターが逆に提案すると村の役人達も野次馬的に集まってきた村人達も静まり返ってしまった。妙な雰囲気は馬上のヴァルターもティッタも感じていた。


「どうした、皆の者?今日の夜は予定があるか?なら明日の昼でもいいぞ?」


ヴァルターが声を村人達にかけるが答えは帰ってこない。村人達からの回答を拒否する態度が村人達と殆ど接点のないティッタをいら立たせた。


「えぇい、まどろっこしい!お主らの中にクライネシュ・グラウの墓に勝手にいった者がおろう?違うのならさっさと返事をせぬか!」


村長も含めた村人達の顔が一気に険しい表情になっていった。図星だろうとヴァルターは察した。


「自由農民のノルベルトの息子ミロです。あの者が歴代領主様のお墓に侵入したのだと思われます。」


初老の村長が重い口を開いて墓荒らしの名を挙げた。合った事は殆ど無いがヴルムドルフ村の裁判で罰金の支払いを命じられたが没落し、貧しすぎて支払いを免除された者としてその名が出てくる為ヴァルターは心辺りがあった。


「俺より10歳年上の若い黒髪の男だったな。素行が悪くて前領主様に罰金を度々払っていた印象だったが?」


「ミロは最近投資にも手を出しておりましたが失敗してしまい、多額の借金を背負っていました。酒場で村の外からの怪しい者達を度々招待して一緒に酒を飲んでいたのを村人が何人も目撃しております。今の領主様がお帰りになる少し前にキノコを取りに行ってくると小山の方角へ行ったきり戻って来ません・・・。この事を報告できず誠に申し訳ありません。」


クライネシュ・グラウの墓は農民や一般の騎士と違い古代の貯蔵庫を利用して石棺を中に配置して歴代のヴルムドルフ村の領主を生前大事にしていた服飾品と共に埋葬していた。事実ヴァルターも一家の始祖のヴァルデマールの魔剣を取りに行こうとしているのだからミロもよそ者達に墓に宝ものがあると吹き込んだのだろうとヴァルターは予想した。


「村長殿、貴方の謝罪を受け入れる。ミロは裁判にかける為に出来る限り生かして捕まえる。だが彼やよそ者が武器を持って抵抗したら正当防衛でこれを使う。よろしいな?」


ヴァルターはグラニの鞍にかけてあった槍を手で村人たちに見せつけて最悪殺す事もありうると示した。村長はヴァルターの言動を受けて険しい表情になったが「わかりました・・・」と了承した。


「皆の者、暗い話題になって申し訳ない。話は変わるが金を払うので俺とティッタに飯を食わせてくれないか?小山の墓参りには体力がいるんだ。」


ヴァルターは出来るだけ明るい表情で村人達に食事を頼んだ。村人達はすぐに了承し、馬から降りて村の食堂へと移動したヴァルターとティッタは黒パンのスライス、野菜のスープとソーセージのセットを食べながら村人達との会話を少しの間楽しんだ。


「えぇい!基礎位は教えるから食べる時にいちいち質問をするなぁ!まともに飯も食えん!」


滅多に村の方へと降りないティッタを囲んで村人達がこれを機会にと魔法に関して質問攻めにあったのを、彼女の弟子のヴァルターは苦笑いしながら昼食を楽しんでいた。

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