第41話 墓荒らしの代償 後編

「冬至祭りの時にあった事のある顔だ。酔った時の素行が悪くて追い出したがこいつがミーロか。」


「他の二人の遺体は村人の噂してたよそ者かもしれん。大方墓泥棒だったのじゃろう。」


死体の放つ腐臭に耐えられず暴れそうになるグラニを宥めながらヴァルターはティッタと共にグラニから降りた。宥めた馬をとりあえずすぐそばの木に止めると、二人は横たわっていた死体をもう一度観察した。


「ティッタ、こいつら武装してたみたいだ。墓守に出くわすと思って刃物を用意していたんだろう。」


ミーロと思わしき遺体の近くには農業用の鎌があり、他の二人の遺体はナイフを握りしめていた。刃先には赤い血痕がついていた

「魔物か何かに一撃を当たえる事は出来たようじゃがこんな鈍いナイフでは切れ味もたかが知れておるの。」


横たわっている遺体から目を離し先ほどまで追っていた鹿の血痕を見ると広場を通り墓の入口を伝って地下墓地へと繋がる階段へと続いていていた。入口にあった木製の施錠された扉は見事に壊されバラバラになっていた。これほどの被害を起こした化け物が墓の中にいると分かってティッタは大きな溜息をついた。


「ティッタ、俺は魔物は殆ど狩った事はないんだ。ここまで強く食いちぎる様な魔物なんて初めてだ。何だと思う?俺には竜くらいしか思いつかない。」


「お主の言う通り、大方竜じゃろう。馬が入れる程度の高さと城の門位の幅しかないし、あのナイフで一応傷を与えられるなら下級のリンドヴルムじゃろう。」


その名を聞いてヴァルターは身震いした。ボイマルケンにも生息する翼をもっていない竜に総じて与えられる名称で、鋭い牙を武器として容赦なく獲物を狩ると言う。従騎士になったばかりの頃に他の騎士達と共にいったリンドヴルム退治にヴォルフラムに同行して事がある。最終的にそのリンドヴルムは退治されたが皮鎧しか付けていなかった一般の兵士は10名も食い殺され、鉄鎧を纏っていた騎士もリンドヴルムの鋭い歯と強い顎で5人も食い殺されていた。その事を思い出し、竜退治というのは一筋縄では行かないとヴァルターは理解していた。


「ティッタ、去年父さんが上級のリンドヴルムの退治をしに行った時に同行した事があるが歯が強いだけじゃなくて槍も矢も刺さらないくらい皮膚も恐ろしく硬かった。最後は攻城用のバリスタを持ってきて倒したくらいだ。今回のやつもそれくらい硬いと思うか?」


「さっきもいったがあんなナイフで傷を与えられるから矢も通ろうて。リンドヴルム、というか竜の問題はその肉の分厚さじゃ。刃が通っても急所まで通るか分からぬ。魔法も使い弱点を探ろうぞ。」


ヴァルターは地下墓地に巣くっていると見られているリンドヴルムについて協議したがティッタの助言でヴァルターは飛び道具や魔法を使う事でリンドヴルムに対処する事にした。ヴァルターはグラニの鞍から弓と矢立てを背負い、槍と腰に刺していた短剣の状態を確認すると墓への入口に入る為に立ててあった松明に火を出す為の魔法を口で詠唱して火を付けるとティッタと顔を合わせ互いに頷いた。

覚悟の出来た二人は待ち受けている魔物に備えてゆっくりとヴァルターの先祖の眠る地下墓地へと続く階段を降りていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る