第38話 墓荒らし 前編

ヴァルターは朝起きると朝食の為に家族が集まる時に父の仇を討つ為に一家秘伝の魔剣を先祖の墓から取りに行くと打ち明けた。コーネリアとグトルーネはヴァルターがこれからやろうとしている事に驚いたが、コーネリアは昨日の昼とはうって変わってすぐに覚悟を決めた目になっていた事から彼を止めようとはしなかった。


「現当主の貴方がそうするなら止めません。結果的に墓荒らしにはなりますがそれでもご先祖様への敬意を忘れない様に。」


母コーネリアからは厳かな顔つきでこれだけ言われた。ただそれがヴァルターを緊張させる。


「お兄ちゃん、肩の力抜きなよ。墓荒らしっていっても一家の宝を一つ取りにいくだけだからバチなんて当たんないでしょ?」


妹のグトルーネがそう兄を励ますがそのすぐ後にコーネリアからお叱りをくらったのはいうまでもない。


屋敷の中庭で朝食後の剣の素振りの練習を終えた後、ティッタの住む小屋に向かうと室内で彼女が椅子に座りながら真剣な顔つきで本を読み漁っていたのが見えた。読んでいるのは魔法書か何かだろうとヴァルターは推測する。横で突っ立っていたヴァルターの存在に気づくとティッタは振り向いてこういった。


「ヴァルター、クライネシュ・グラウから魔剣を取りに行く話じゃがな一応武装しておいた方が良いぞ。わしも魔法の準備をしておる」


「幽霊でも出るのか?それなら塩でもまきに行くか?」


「森の中にあるんじゃから当然狼とかおるだろうに。ごくたまに魔物も出て村が大騒ぎになったじゃろう?まぁお祓いに一応塩はもっていくか・・・。」


ヴァルターがまだ小姓の頃、冬を祝う冬至祭の為に暇を許されて帰郷した時に霜の魔物、小人の姿をしたジャック・フロストが何匹か村にやって来た事があった。彼らを怒らせると殺されてしまう為、その時領主だったヴォルフラムと村の人々は放っておくかすぐに倒すかで議論していたがが子供たちが雪だるまを作るとジャック・フロスト達はいたく喜んで子供たちと雪遊びをし始めた。後に遊んでくれたお礼として内陸国のボイマルケンではあまり流通していない氷漬けの新鮮な鮭を子供たちの分だけ渡して何処か別の場所に移っていったのだ。


「今は寒いがジャック・フロストが出るには遅いんじゃないか?」


「馬鹿者、巨人か竜辺りを警戒せいといっておる。魔族も魔物を狩るから魔王の軍の侵攻でそれを恐れてここに逃げてきておる。屋敷に奉仕にやってくる村人を通じて近くの村々が魔物に襲われたという話じゃ。用心に超した事はなかろう?」


魔物はともかく道中で害獣に襲われる可能性は高い事は否めないのでヴァルターは屋敷の武器庫にあった槍と弓と矢立てで武装し、ティッタは魔法の杖と魔法円を書き込んだ羊皮紙を万が一に備えて用意していた。


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