第37話 幼馴染としてのリンダ
「どうしたんだいリンダ?夜風に当たってしまっては風邪を引いてしまうよ?マグヌスも彼女の小姓なのだから体調くらい気遣ってやりなさい。」
グリュンブルク城の城壁で毛皮を纏いながら冬の夜風にあたって地平線を眺めていたレギンリンダに声をかけたのは父親のルートヴィヒ大公だった。彼女をリンダと呼ぶのはヴァルターの他には母と父のルートヴィヒ大公くらいしかいない。同じく声をかけられたマグヌスは答えに窮していた。景色を見たいと言ったのはもともと彼女の要望だったのだ。レギンリンダに付き従う小姓として彼女のご意向に余程の危険がない限りは基本的に無下にはできなかった。そんなマグヌスをレギンリンダが庇う。
「大公殿下、マグヌスはあくまで私の意向に従ったまでです。彼を責めないでください。」
「そうかしこまるなリンダ。父と娘ではないか。」
悪意はないがずけずけとやってくる父の態度に内心イラついていてもレギンリンダには表に出す事が出来なかった。秘密の幼馴染の帰還を待っているとはとても言えないからだ。平静を装ってレギンリンダはルートヴィヒ大公に答えた。
「この地で散った騎士達に思いを馳せておりました、お父様。」
嘘は言っていなかった。ヴァルターの事を考えていると彼の生贄にされた父親の事を思い出し、連鎖的にこのグリュンブルクの土地で血を流して命を落とした騎士たち、兵士達の事がヴァルハラに無事に旅立つ様に考えていたのだ。ただヴァルターの事について他の騎士たちより多く考え込んでいただけだった。
「そうか・・・、すまなかったな。ここにもう少しいてもよいがくれぐれも風邪を引かぬようにな。」
「はい、そういたしますお父様。」
レギンリンダがそういうとルートヴィヒ大公は後ろにいた部下たちと共に城の中へと戻って行った。
ルートヴィヒ大公がいない所を見計らってマグヌスがレギンリンダに話しかけた。
「姫様、大公様がおっしゃる様に夜の今は特に寒いです。くれぐれもお気をつけてお過ごしください。」
「ありがとうマグヌス、でももうちょっとだけ景色を見たいの。」
冬の夜風が毛皮をかぶっていない顔に染みる中、瞳に映る風景にレギンリンダは思いを馳せた。
もしヴァルターがもっと早く騎士になっていれば父の命令で突撃して戦士していただろうか?
もし魔族に捕まっていたら・・・・と思うとその先は想像したくないと思考を拒否するレギンリンダであった。
幼馴染である彼が死んでしまう所など見たくもない。もし彼が私の騎士であるなら・・・。
私が彼の主であるなら死なせる様な命令など絶対下す事はないのに・・・。
そう考えていく内に寒いのにレギンリンダの頬が徐々に温かくなっていくのが彼女自身分かっていた。
彼を自分のものにしたいのか。死なせたくないなら自分に従わせる様にさせるくらいには彼の事を思っていたのか。
レギンリンダが心の内に秘めたヴァルターへの恋心は頬についた雪結晶を溶かすには十分な程の熱さだった。恥ずかしい限りだったが彼を死なせたくない思いは本物だった。
「ヴァルター、貴方の事を思うと胸が高まるの。どうか死なないで、どうか生きて帰ってきてちょうだいヴァルター。」
地平線のはるか向こうにいる幼馴染に思いを馳せるには冬の夜の寒さなどレギンリンダにとっては耐えられるものだった。
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