【プレゼントを作ろう】
その魔城破壊完了の報告は、直接ではなくソフィアの口から聞く事となる。
「やっぱり知ってたのね、ダンは。」
「聞いたのか?」
「ええ。シヴァ神が現れる事も聞いたわ。というか、パパじゃなくてシヴァ神だった。今日はシヴァ神の日とか言ってたわよ。」
「あっ、そうか!今日は元々シヴァの日だったか!」
今日は7月30日、0の付く日だ。
祈るまでもなく、最初からシヴァが出て来る日だった。
聞けば、怪我もなく元気に喧嘩をしていたと言う。
「次はインドに行くんだって。任務は無しで楽しんで来てもらうつもりよ。」
「ああ、それがいい。任務から離れて英気を養う事も必要だからな。」
頷いたソフィアがリリィの所在を聞いてきた。
温室にいると答えると、アムリタと神器について聞きたい事があるからと出て行った。
アムリタは不死の霊薬で、シルビアを瀕死状態から救ってくれた。
傷を癒やすシヴァの神器と霊薬アムリタ。
それがあれば、手遅れにならない限り2人が死ぬ事はない。
手遅れにならない限りはな……。
それでも、話を聞けばソフィアの不安はなくなるはずだ。
ともかく、2人の強さを信じ、無事に旅が終わる事を祈ろう。
「はは、俺の祈りも増えてるな。」
リリィほどではないが、ふとした瞬間に祈る事が増えていた。
神々に触れ、その存在を確信したからだろう。
こうして徳が積まれ、そのうち俺も神を目撃するのだろうか。
いや、それはないな。
神に会えるのは徳の高い僧侶だ。
何の修行もしていない俺が神を目撃するなどあり得ない。
シャスタの中にいるシヴァとは話をするが、本当の姿を見た訳ではないのだから。
リリィほど信心深くなければ──
「……そろそろ迎えに行くか。」
リリィの事を考えて思い出した。
迎えに行かなければリリィは時間を忘れてハーブの世話をし続けてしまう。
だから時間を見て迎えに行く事にしていた。
熱中症の心配は勿論だが、リリィに何かあれば大変だからな。
母子共に健康であって欲しいと、気づけばまた祈りを捧げていた。
祈りのお陰か、リリィは順調に安定期を迎えた。
それでも気は抜けず、温室での作業時間に制限をつけた。
俺がいない時はメイドに頼み、それだけは絶対に守らせている。
レイフやエリーには過保護だと言われたが、リリィ本人は気にしていない。
「20日はシルビアちゃんの誕生日よね。プレゼント、何が良いかしら。」
「用意しても渡せないだろ?」
「それでも用意したいのよ。手作りの物が良いかしら。」
「手作りか……。」
それならリリィに負担がかからない物が良い。
無理なく作れる物と言えばあれしかない。
「クッションなんかどうだ?刺繍を入れて。」
「刺繍……良いわね。じゃあ、クロスステッチで──」
作品が思い浮かんだのか、材料を探しに行ってしまった。
手芸は座ったままの作業だから身体への負担は少ないだろう。
これでしばらくは安心だ。
「ダン、どんな絵が良いと思う?」
「シルビアなら動物にすれば間違いないな。」
確かにと笑うリリィ。
「じゃあ、白虎にしようかしら。」
「それがいい。だが無理はするなよ。20日までに作らなくても良いんだからな?」
頷き、リリィは作業に入った。
クッションに集中するリリィは、ハーブの手入れを最低限にして完成を急いでいた。
温室での作業時間が減るのは良いが、根を詰めすぎている。
だが、俺が言っても聞こうとしなかった。
「そういう訳でな、お前から言って欲しいんだ。」
〔でも聞いてくれるでしょうか。ダンお兄さんが言っても駄目なんですよね?〕
「お前の言う事なら聞くだろ。シヴァ神の化身だからな。」
〔なるほど。それならやってみましょう。〕
シャスタに頼んだのはシルビアにプレゼントの事を知られたくない為だ。
事前に知っていては喜びが半減するからな。
一度交信を切ったシャスタがリリィに電話をかけ、ゆっくり作るようにと話をした。
その効果は抜群で、それからのリリィは休み休み作るようになった。
「しかし細かい作業だな……。」
「ふふ、本当はシャスタさんに言われてほっとしてるの。」
そう言いながら、刺繍の手直しをしていた。
急がなければと焦っていた為、少し雑になっていたらしい。
「時間を頂いたからには完璧に仕上げるわ。」
「まあ、程々にな。」
根を詰めないように、無理をしないように。
シャスタの言葉を肝に銘じ、日課のように少しずつ作って行くリリィだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます