【おめでとう、リリィさん】エリーもね
「良いか?あまり期待するなよ?」
頷いたリリィがトイレに向かう。
「ストレス……なんだろうな……。」
子供ができないストレス。
それが月経を遅らせていた。
それでも期待して確認し、違ってがっかりするのが毎月の恒例となっている。
「リリィ?大丈夫か?」
いつもならすぐに出て来るのだが、なかなか出て来ない。
物音すらしないのはどういう事だ?
「リリィ、具合でも悪いのか?」
呼びかけても答えない。
一瞬、脳梗塞や心筋梗塞が頭に浮かんだ。
個室で倒れているのではと、慌ててドアを叩いた。
何度も何度もドアを叩いたが、中からは何の反応もない。
「っ、リリィ!」
手遅れになる!
そう思い、ドアを蹴破ろうとした瞬間──カチャリとドアが開いた。
「リリィ!大丈夫なのか!?」
茫然としたままゆっくりと出て来たリリィの肩を掴み、意識を戻そうと揺さぶった。
ハッとした彼女が俺と視線を合わせ……
「通じた……」
ぽそりと言った。
通じた……って何がだ?
首を捻る俺に彼女は叫んだ。
「祈りが通じたの!」
ああ、祈りか。
いつもの祈りが
「授かったのよ!」
瞬間、俺の頭は真っ白になった。
「ダン!ダンったら!」
揺さぶられ、ハッとした。
「ほら見て!」
差し出された妊娠検査薬。
いつもと違う印がそこにあった。
「本当にできたのか!?」
「ええ。でも病院で診てもらうまで確証は」
言い終わる前に手を取り走り出す。
「ダン!?病院に行くならバッグを持たないと!」
「必要ない!キティに診てもらう!」
「そういう事……。だったら……」
そんな呟きと共に、グイッと体を引っぱられ、足を止めた。
「リリィ……?」
振り向けば微笑んでいるリリィの姿。
焦らないでと笑っていた。
「ゆっくり行きましょう?もし違ったら悲しいし……。」
「げど陽性だったろ?」
「ええ。でも、1%の間違いかも知れないじゃない?」
慎重すぎないかと思ったが、これまでの経験がそうさせているのだろう。
「……そうだな。なら、検査薬を信じてガレージまで幸せを噛みしめて行くか。」
「ええ。こうして手を繋いでね。」
繋がれたままの手を見て、笑ってガレージへと向かう。
99%は確実と言われる検査薬だから、俺には何の不安もなかった。
「キティ、いるか?」
「マルクさんと任務中。ちなみにゼットは点検中。」
レイフがゼットの点検が終わるのを待っていた。
「キティに用事ですか?交信します?」
工具を持ったエリーが手を止め、真剣な顔で聞いてきた。
緊急を要する件でもないのにと、少し気まずい。
「いや……居ないなら良いんだ。邪魔して悪かったな。」
キティが戻ってからまた来よう。
そう思って戻ろうとしたのだが……
「ゼット、診断してくれる?」
『診断?何を?』
「私を診て欲しいの。」
待ちきれないらしいリリィがゼットに頼んでいた。
早く確証が欲しいのだろう。
『いいぜ。何を診る?胃の調子でも悪いのか?』
「いいえ。妊娠したかどうかを」
「えっ!リリィさん妊娠したの!?きゃーっ、すぐ診断するわ!」
興奮したエリーがゼットを操作し、あっという間に診断が終わった。
「おめでとう!リリィさん!ダンさん!」
「ありがとう、エリーさん。ふふ、念願の子宝だわ。」
確証したリリィが下腹部に手を添え微笑んでいる。
99%が100%になり、俺も喜びを噛みしめた。
「おめでとう、兄貴。先越されたなぁ。」
「ほんと。私達も早く欲しいわね。」
「はは、ありがとう。お前らもすぐ授かるさ。リリィの祈りがあるからな。」
「ええ、祈りますよ。お2人に子宝が授かるように……。」
待ち望んだ子供がリリィの中にいる。
会える日が待ち遠しいと、リリィの腹に手を添えた。
『なあ。』
「あ、ごめんねゼット。すぐ続きやるわね。」
点検中だった事を思い出し、エリーが工具を手に取った。
『あのな、エリーも妊娠してるぞ?』
ゼットの言葉に顔を見合わせる俺達。
当の本人は寝耳に水だった。
「え?私が妊娠?そんなはずは……」
「エリー?生理は?」
思い当たったのか、レイフが確認している。
少し考えたエリーがハッとして……
「そういえば来てないかも。忙しくて忘れてた……。」
笑って頬を掻くエリー。
俺達ほど熱望していなかったらしく、チェックする事もなかったのだろう。
「って事はマジでできたのか!?やったなエリー!」
「うん、何か拍子抜けだけど。」
何となくついでに診断したというゼットのお陰で、エリーの妊娠は簡単に発覚した。
喜び二倍となったハウエル家は、子供達の誕生を今か今かと待ち侘ている。
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