【さすが天界の有名人】

「は?ヴィシュヌとラクシュミー……?」



〔そうなの。すっごい美女だったわよ、ラクシュミーさん。でね、ヴィシュヌさんと一緒に魔族退治したの。〕



ヴィシュヌってリリィが言ってた三大神の一人だよな……?



〔それでね、ちょっと油断しちゃってね、魔族の毒で死にかけちゃった。〕



「死にかけたって、おい!」



〔でも元気でしょ?アムリタで命を救ってもらったのよ。〕



「だから油断するなと言ったんだ!家族の事も少しは考えろ!」



〔うん。次は絶対に油断しないわ。毒がある事も分かったしね。〕



危機を経験した事から真剣に誓うシルビア。

一つ息を吐き、生きて帰って来いとエールを贈った。



泣きそうな顔で終わった交信……。


今頃シャスタの胸で泣いてるんだろうな。

いや、シヴァの胸か?


どっちでもいいが、ちゃんとシルビアの心をケアしろよな……。



「ダン!ねえダン!シルビアちゃんから写真が届いたんだけど!」



リリィがバタバタとガレージに飛び込んで来た。


その手にはシルビアの作った電子アルバムがあり、見せられたのはカップルの画像だった。



「凄い美男美女じゃないか。インドの俳優か何かか?」



ふるふる首を振るリリィ。

良く見れば目に涙がたまっている。



「神様ですって!ヴィシュヌ神様とラクシュミー様にお会いしたんですって!」



「ああ、そんなような事言ってたな……。良かったじゃないか、神様の写真貰えて。」



頷きながらも少し膨れている。

俺の反応が薄いかららしい。



「ダン……これ見て何とも思わないの?」



「美男美女だとは思うが、はっきり言ってピンと来ない。」



この2人が神だと言われても、どうも現実味がない。

そもそも、神が姿を現す事自体おかしいじゃないか。

俺達が目撃するのもおかしいよな。

神に会えるのは徳の高い僧侶なんじゃないのか?



「俺達は神に会えるほど徳を積んだ訳じゃないだろ?」



「確かにそうだけど……身近に化身がいるんですもの、会えても不思議じゃないでしょう?」



そういうものなのか?

俺はリリィほど信心深い訳でもないし──



「そうか。リリィの徳が高いのか……。」



「え、私の?」



きょとんとしているリリィに苦笑した。

自分がどれほど信心深いか理解していないらしい。



「ロスに来てから教会に行ってないのよ、私……。」



だから徳があるはずはないと苦笑している。



「けど祈りは捧げてるだろ?いつでもどこでも祈ってるよな?」



「ええ。教会に行けないから、空いた時間に祈るようにしてるわ。シルビアちゃん達の無事も祈らずにはいられないし……。」



やっぱりな。

ロスに来てから拍車がかかった訳だ。


教会に行けない後ろめたさが、過剰な程の祈りを捧げさせている。

もはや義務と化しているのではと、リリィが心配になった。



「なあ、リリィ。祈りを捧げるのは良いが、苦痛になってないか?シスターじゃないんだから、義務的に祈らなくても良いだろ?」



そう言うと、驚いた顔をされた。



「義務なんて感じてないわ。そうね……私にとって祈りは生活の一部なのよ。」



生活の一部……?



「ふとした瞬間に、呼吸するように祈りを捧げるの。」



「呼吸ね……。一体何を祈ってるんだ?」



家族の健康や学業成就。

FLAGの隊員達の安全や仕事の成就。


些細な事から大きな事まで、常に願っていると彼女は言う。


リリィの祈りは自分の為ではなく他人の為に捧げられている。

だから徳が高いのかも知れない。



「自分の為には祈らないのか?」



「ええ。あ、でも……」



少しばつが悪そうにリリィは言った。



「子宝に恵まれるよう……祈ってたわ……」



リリィにとって自分の為の祈りはタブーなのか、罪悪感にまみれた顔をしていた。



「そんな顔するなよ。子供はリリィだけの望みじゃないだろ?父さん達だって望んでいるし、何よりも俺が望んでるんだからな。」



「でも……」



「だから俺の為に祈ってくれ。あと、父さん達の為にも。」



少し考え、そして頷いた。



「それが家族の為になるのなら、堂々と祈りを捧げるわ。」



「ああ、そうしてくれ。」



吹っ切ったリリィの祈りは、その回数を増して行く事となる。

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