神様に嫉妬するお兄ちゃん

【まめに連絡を受けるお兄ちゃん】

毎日ではないが、まめに連絡を入れて来るシルビアとシャスタ。


訪れた街の話や任務の話。

救われた人達の笑顔が一番の報酬だと笑っていた。



「人前でイチャついてないよな?」



〔勿論ですよ。トリックが怖いですからね。〕



そう言って笑うシャスタ。



〔その分、夜が凄いのよ?シャスタったら〕



「話さなくていい。」



ピシャリと遮ると、膨れていた。

新婚気分でノロケたいんだろう。



〔と、とにかく、人前ではイチャついていませんので御安心を。〕



「ああ。それより……」



〔……まだですよ、ダンお兄さん。〕



「そうか……。気をつけろよ。」



まだ魔族との遭遇はないらしい。

一気に緊張する俺達。



「おっ、連絡中か!?なあなあ!今どこにいるんだ!?」



雰囲気をぶち壊し、レイフが割り込んで来た。

そんなレイフに笑って答えるシャスタ。

元コンピュータだけあって、切り替えが早い。


そんな2人の会話を聞きながら、このまま誰にも知られる事なく終わればと思った。


誰も、2人が担う任務の事を知る必要はない。

不安に思うのは俺達だけで良い──。



2月になり、サンパウロから連絡が入った。



「一昨日だと!?何ですぐに連絡よこさなかったんだ!?」



魔族と遭遇し、戦いに勝利したと言う報告だった。



〔だ、だってその夜にいろいろあって……昨日はぐったりしてたんだもん……。〕



「詳しく話せ。」



ギロリと睨み、詳細を促した。

魔族とダミーと──シヴァだと……?



〔でね、シヴァに愛されて死ぬかと思った。さすが本物の破壊神よね。〕



「おい、後ろ。」



〔え、後ろ?うわ、ごめんシャスタ、〕



もの凄く冷めた顔のシャスタがいた。

シャスタにとっては面白くない出来事だから当然だろう。



「大丈夫なのか?お前ら……。」



〔大丈夫ですよ、ダンお兄さん。シヴァが出るのは戦いを終えた直後らしいので……魔族と遭遇するまで出て来られませんよ、あいつは。〕



はは、恨みタラタラだな。

だが、2人の関係がギクシャクしている訳ではなさそうだ。



「まあ、頑張れよ。次はどこに向かうんだ?」



〔ハイチに向かいます。およその見当がつきましたので、そこを目指してみようかと。〕



「そうか。絶対油断はするなよ。」



交信を終えた俺は天を仰ぐ。

2人が無事に帰って来られるよう、神に祈りを捧げた。



「レイフ、ちょっと良い?あ、ダンもいたんだ。」



レイフの情報処理室にいるとソフィアがやって来た。

その手には一枚の紙がある。



「次のターゲットか?情報集めなら任せろ。」



「あ、違うの。この学校ってママのいた学校だったりする?」



依頼書を差し出され、2人で覗き込む。



「だな。へ~、学園祭の出演依頼か。面白そうだな。」



「ママの学校か……。んー、受けるべき?」



「良いんじゃないか?たまには楽しめる仕事で息抜きさせてやれよ。友達にも会えるしな。」



あの3人と会えば英気も養われるだろう。



「ダンの言う通りね。インプットした依頼、結構ハードめだったし。」



「あっ、じゃあ俺も顔出す!どんな学園祭になるか見たいしな!」



そうか、そこであいつらに会えるじゃないか。



「だったら俺も──チッ、かぶってる……。」



学園祭は別件と同じ日だった。

残念だが仕方ない。



「ん?お前もかぶってるんじゃないか?」



「まあな。けど近場だし、行って行けない事はないぜ?」



「あ、だったら様子見お願いして良い?バカップルがバカになっていないか確かめて欲しいの。」



ため息をつきながらの発言に、苦笑する俺達。

とにかくこうしてレイフの偵察が決定した。



「ダラスかぁ。懐かしいわね。」



「里帰りしたいか?」



「ええ。でも、里帰りはシルビアちゃん達の任務が終わってからにするわ。」



2人が家族と会えないのに、自分が会う訳にはいかないと言うリリィ。


そこまで気を遣う必要はないと思うが、あいつらを敬う彼女には何を言っても無駄だった。



「それより大丈夫かしら。次はマサチューセッツを目指すんでしょう?そこに魔城があったら……」



「既に遭遇してるから油断はしないだろ。それよりも心配なのはシヴァの出現だな……。」



シヴァの名を出した途端、リリィの瞳が輝いた。



「シヴァ神様ってどんな人なのかしら……。破壊だけじゃなく恩恵も与える慈悲深い神様なのよね……。」



「さあな……。俺達が会う事はないだろう。」



「会えるかも知れないじゃない。プラチナブロンドの神様には会えたんだもの。」



そう言って、その神を思い出しているのかうっとりしていた。



「リリィ……俺を嫉妬させたいのか?」



「あら。神様に嫉妬はナンセンスよ。」



ふふっと笑うリリィにかぶりを振る。

それでも嫉妬する俺はおかしいのだろうか。


いや、して当然だろう。

嫉妬は愛の証しだからな。

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