【新婚さんの夜はこんなものよ】
「ダン!良かったまだ居て!」
翌朝、出掛ける準備をしているところにリリィが駆け込んで来た。
その表情はかなり緊迫している。
「どうした?何かあったのか?」
彼女を落ち着かせる為にも、あえて穏やかに尋ねる。
「シャスタさんとシルビアちゃんが喧嘩になっちゃって、」
「喧嘩?あいつらが?」
あり得ない事だと詳細を促した。
焦るリリィの説明では、神器と直刺しと料理の肉が原因らしい。
「とにかく、シャスタさんがもの凄く怒ってて、シルビアちゃんが追い掛けて行ったんだけど、あの様子だとどうなるか、」
まさか殴り合いの喧嘩に発展──したら大変じゃないか!
「リリィ!あいつらはどこだ!?」
「多分、部屋だと思」
リリィが言い終わる前に部屋へと走る。
リリィも後を追い掛け走って来たが、それを待つ余裕はない。
あいつらの殴り合いで屋敷が崩壊したらどうする。
「っと、悪い、」
小走りのメイドとぶつかりそうになった。
驚いた彼女の顔は真っ赤だった気がするが、今は気にしている暇はない。
そのまま走り、2人の部屋が見えた時だった。
「キャーッ、許してっ、」
その悲鳴に思わず足を止めてしまった。
良く見れば、部屋の前で固まっているメイドがいる。
ノックしようとした状態で、顔を真っ赤にしてフリーズしたメイド──。
そういえばさっきすれ違ったメイドも真っ赤だった。
焦っていた俺の頭が急激に冷えて来る。
まさかとは思うが、その考えが正しい気が……
「あっ、いやっ、シャス……タ、んっ、」
やっぱりか!
中から悲鳴に近い喘ぎ声が聞こえて来た。
かぶりを振り、眉間をつまむ。
盛大なため息も出た。
「ダ、ダン、2人の喧嘩は、」
追いついたリリィが息を切らせながら尋ねている。
もう一つ大きなため息をつき、リリィの方へと向きを変えた。
ああ、忘れていた。
「君も気にせず戻った方が良いぞ。」
振り向き、フリーズしたままのメイドに声を掛ける。
「あっ、は、はい、」
弾けるように動き出したメイドは、小走りで自分の仕事に戻って行った。
「ダン?どういう事?2人は?」
「気にするな……。」
「え、でも、喧嘩を」
教えた瞬間、真っ赤になってフリーズするリリィ。
「行くぞ。」
頷いたリリィを連れ、俺達もその場を後にした。
まったく、破廉恥娘が……。
その日の夜、俺は部屋で嘆いていた。
いつか絶対人前でやると確信して……。
「ダン、仕方ないのよ。それがシヴァ神様の」
「だとしてもな、ここは人間の国なんだ。神の国と一緒にされちゃ困るんだよ。」
「それほど深い愛って事でしょう?愛に正直なのよ、シャスタさん達は。」
「愛してるからって所構わずやる馬鹿がいるか?理性の問題だろうが。」
ため息をつきながらリリィの言葉を待った。
神を
彼女が俺に同意するのを待っていたのだが、何の言葉も返って来ない。
怒ったのかとリリィを見れば──
「このタイミングでか!?」
服を脱ぎ、ベッドで俺を待っていた。
確かに時間も時間だが、話の途中なのにと眉間にシワが寄る。
「愛に正直になってみたの。」
「正直にって……」
すなわちそれは、今すぐ俺に愛されたいという事で……。
愛して欲しいと誘う瞳に引き寄せられる。
「断れないのを知ってて誘ったな……?」
頷き、ふふっと笑うリリィ。
フッと笑い、リリィを愛し始める。
これでも新婚だからな。
求められたら抗えないのは当然だろ?
だが違和感がある。
なぜあのタイミングで誘ったのか。
反論もせずいきなり愛を求めるとはリリィらしくない。
なぜ庇うのをやめた?
いわば神の悪口を言っていたのに。
愛に正直になってみたと言うが──
「クソッ、やられた……」
「ふふ、理解できたでしょう?」
「ああ。衝動はな。」
リリィの行動は俺に分からせる為のものだった。
あいつらの抑えられない衝動は分かったが、所構わずは理解できない。
俺達のように、こうして寝室で──
「クッ、あいつらも寝室だったか。」
「そうよ?所構わずじゃなかったでしょ?」
ちゃんと場所をわきまえているから大丈夫だとリリィは言う。
「そうだといいがな。俺でさえ君の誘惑に盲目になるんだぞ?愛に正直すぎるあいつらに場所を選ぶ余裕があると思うか?」
「んー……ふふ、無理かも。」
同じ衝動に駆られている今、そんな余裕はないとリリィも思ったようだ。
「でも信じましょう?シャスタさんの理性を……。」
「そうだな……。はは、俺の理性は限界だ。」
リリィの小さなトリックに内心で苦笑して……微笑む彼女に口づけ愛し合う。
こうして新婚夫婦の夜は更けて行った。
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