【結婚式、そして新婚旅行へ】

「きゃーーっ!やったわ!ダン兄ちゃんを騙した!みんなありがとーー!」



大喜びのシルビアにかぶりを振る。



「お前……何の恨みがあってこんな真似……」



「シャスタの唇を奪った仕返しよ。」



本気で殴らせた恨みもあったらしい。

こいつ、ずっと根に持っていたのか……。



「冗談ですよ。お兄さんがダンお兄さんの後じゃなきゃ結婚しないと言うので……。」



シャスタが事の経緯を話しているが──



「するか!ダブルウエディングなんて冗談じゃない!」



俺達には俺達の計画がある。

完璧な式にしようと準備を進めていたんだ。


それをぶち壊してダブルウエディングだと?

やる訳がないだろう。



「そう言うと思ったから騙したのよ。恨みもあったしね~。」



「やっぱり恨んでたんじゃないか。まったく、リリィまで巻き込んで騙すなよ。」



「だって花嫁がいなくちゃ結婚できないでしょ~?」



「だからしないと言ってるだろ!ダブルウエディングなんか出来るか!」



「お、お兄さん!」



シャスタに促されてリリィを見ると、体を震わせ泣きそうになっていた。



「ダン兄ちゃん、あっちも……。」



見れば変装したベネット氏が睨んでいた。

さすがに父親を怒らせる訳にはいかない。



「ダン……。貴方が嫌ならやめるわよ……。来てくれた親戚には申し訳ないけど……望まない結婚式なら……」



ため息をつき、立ち上がる。

思い描いた挙式ではないが、それがリリィの望みなら仕方がない。



「リリィ、悪かった。嫌な訳じゃない、驚いただけだ。」



待たせて悪かったと口づける。

シルビアに揶揄からかわれ、怒鳴りつけているとレイフが口を挟んで来た。



「なあ、もう良いだろ~?俺達ずっと待ってるんだぜ~?」



もう一組のカップルが待ちくたびれていた。



「ダンお兄さん、式を始めても良いですか?」



「ああ。気を遣わせて悪かったな。」



「いいえ。私達のせいですから……気にしないで下さい。」



俺達が勝手に待った4年だが、シルビアとシャスタは自分達のせいだと思っていたらしい。


だからこの計画を立てたのか。

俺達の為に挙式の準備を──仕返しも兼ねてだろうがな。


それにしても、何故リリィは協力したのだろう。



「ふふ、神の御許で結婚式が挙げられるなんて……とても幸せです……。」



そういう事か……。

神を崇めるリリィが、化身であるあいつらの協力を拒むはずがない。


というか、あいつらを神として崇めているのか……?



「リリィ、あいつらには家族として──」



だめだ、聞いていない。


ならばそのうち話そう。

父親に崇められたシルビアがショックを受けた話を……。


フッと笑い、幸せそうなリリィの隣に立つ。


牧師の進行の許、ダブルウエディングではあるが、俺達は晴れて夫婦となった。

レイフ達と共に祝福を受けながら、幸せそうなリリィをもっと幸せにしようと決意した。


この日は俺達の結婚記念日であり、そして、俺が初めて騙された日となった。



「絶景だな……。」



夕日に染まる景色。

新婚旅行で俺達はギリシャのサントリーニ島に来ていた。



「ほんと、綺麗……。」



微笑むリリィに微笑みを返す。

ここに決めて正解だったな。


ビーチを散歩したり、ワインを楽しんだり。


あちこちの聖堂に足を運んだのは少し疲れたが、リリィが満足したのならそれで良い。


宗教問わず神を崇めているリリィだから──ああ、そうだ、思い出した……。



「なあ、リリィ。」



「なあに?」



顔だけでなく、体ごと向きを変えて俺の言葉を待っている。

大事な話だと察したのだろうか。



「あのな、シルビア達の事なんだが……」



「何かあったの……?」



一瞬で真顔になり、2人を心配していた。

何もないと落ち着かせてから、例の話をした。



「だからな、あいつらには家族として接して欲しいんだ。化身である前に、シルビアは俺の妹でシャスタは義弟だからな……。」



「でも……2人は神様と女神様の化身で……」



「難しいか?」



頷いたリリィにため息をつく。


彼女にとって神は神。

崇めるなと言う方が無理かも知れない。



「できないか?それが神と女神の望みでも……。」



「望み……?」



「ああ、神々の望みだ。」



少し考えたリリィが顔を上げた。



「できるわ。それが望みなら……神々の要望に応えてみせる!」



「はは、凄い決意だな。そんな大袈裟に考えなくても良いだろう?」



「私にしたら凄い決意なのよ。相手は神々なんですもの。」



「そうか。けど、ありがとうな。妹の為に頑張らせて悪いが、宜しく頼むよ。」



神々の為ならと、リリィは笑っていた。



「でも……ちゃん付けでは呼べないわ。言葉遣いも敬語じゃないと……。」



「そのくらいなら大丈夫だろ。シャスタはいつも敬語だしな。」



それならやれると意気込んでいた。



「けど、あまり頑張りすぎるなよ?無理して身体を壊したら大変だからな。」



俺はリリィを幸せにすると誓ったんだ。

病に倒れるなど、不幸な出来事でしかない。



「大丈夫よ。無理した分、ダンに優しくしてもらうから。」



ふふっと笑って寄り添うリリィ。

それで癒されるのなら、いくらでも優しく接してやろう。


肩を抱き、夕日を眺める。


見知らぬ人ばかりの見知らぬ土地で、俺達は新婚カップルとしてラブラブな時間を過ごした。

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