世帯主となったお兄ちゃん

【初めて騙されたお兄ちゃん】

リリィがロスに来てからは、毎日とは言えないが頻繁に会っていた。

独りで待つリリィを外に連れ出し、ショッピングや散歩をしながら挙式の話も進めていた。


そんな中、花婿の身代わりという任務が入り、予行演習になると思いながら任務に就いた。


花婿は俺に良く似た男で、変装のし甲斐がなく面白くはなかったが……



「えっ、嘘っ、ダンさんだったの!?」



花嫁を騙せた時は痛快だった。

この瞬間が堪らず、俺はトリックを楽しんでいる。



「じゃあ、私達は先に式場に入るわね。絶対守るから安心して。」



「ああ。よろしくな。」



11月18日を迎え、決行の時は来た。


控え室を出て行くシルビアとシャスタを見送り、深呼吸する。



「大丈夫ですか?ダンさん……。」



「ああ。これは精神集中の為の深呼吸だ。」



敵が来たとしても自分の身は守れる。

だが、今回は花嫁も守らなくてはならない。


誰かを守りながら戦った事がない為、守りきれるかどうかの自信はない。


だから深呼吸した。


シルビア達の護衛を信じ、俺は花嫁の護衛に徹すると決めた。



頼むぞ、シルビア。

しっかり護衛してくれよ。

俺には俺を待つリリィがいるんだからな……。



式場に入り、ロードを進む。

まっすぐ前を見ながらも、両端の参列者に不審な人物がいないか確認した。


見た限りでは純粋に祝福を贈っている。

俺の変装が完璧過ぎるのか、本気で祝福され申し訳なく思った。


だがこれは任務だ。


妨害している者を捕まえる為には仕方のない事だと、気持ちを切り替え任務に集中する。



そして花嫁の入場──。



ゆっくりと向かって来る花嫁。


奇しくも、そのウエディングドレスはリリィが選んだドレスと同じ物だった。


俺達の式もこんな感じなんだろうか。

親族や友人に祝福され、向かって来るリリィを──!?


同じドレスのせいか、一瞬彼女がリリィに見えた。


落ち着け俺。

錯覚してどうする。

今は役になりきらなければ……。


だが、そう錯覚したせいなのか、リリィのような気がして仕方がない。


これは任務だ。

リリィはいない。


そう自分に言い聞かせ、花婿役になりきった。



「待てーーっ!異議ありーーっ!」



そんな声と共に、勢いよくドアが開き男が一人飛び込んで来た。



「来たか!」



遂に来たかと、妨害犯から花嫁を庇うように身を屈めた。


早く来いシルビア!

俺が花嫁を守っているうちに犯人を──



「あの馬鹿!こんな時にイチャついて!」



何が護衛するだ!

こっちを見てもいないじゃないか!


クソッ、身を挺して守るしかない……。



「君は俺が守るから安心しろ。任務は完璧にこなしてやる。」



花嫁にそう言い、屈んだ低姿勢のまま敵を見た。

この体勢では足しか見えないが、銃かナイフを持っているに違いない。



「殺るなら俺を殺れ。花嫁には手を出すな。俺の命と引き換えだ。」



「それ……本当……?」



伏せている花嫁が震える声で聞いている。



「本当だ。命に代えても君を守る。」



怯えているのだろうと、安心させようと抱き締めた。



「さあ、俺を殺れ。」



覚悟して目を閉じると、入場のメロディが流れ出した。

訳が分からず目を開けると、入口から花嫁が送られて来る。


何で花嫁が?

式の妨害はどうなったんだ?


状況を把握しようと目の前に立つ男の顔を見た。



「よっ。」



右手を上げて笑うレイフ。



「何だ、レイフだったのか……。慌てて損した──って、レイフ!?何やってんだお前!」



何でここに居るんだと、思わず叫んでしまった。


シルビアに尋ねれば、任務ではなくレイフの結婚式だと言う。

それならこの参列者は一体──


クソッ、変装している両親がいるじゃないか。

気づかなかったとは迂闊……。


いや、待てよ?

レイフの結婚式が本当なら、俺を騙す必要がどこにある?


そう言った俺にシルビアは言った。



「だってダブルウエディングだも~ん。」



「はあ!?何がダブルウエディングだ!」



ダブルの意味が分からない。

まさか俺とリリィの結婚式をするつもりなのか?


だがリリィはいない。


ここにいる花嫁は依頼者であり──いや、これが任務でなければ仕掛け人の一人だ。


俺を騙すとは良い度胸をしているな……。



「君もいい加減離してくれ!」



騙された腹いせもあり、抱きついたままの花嫁に八つ当たりした。

本来なら、この衣装はリリィの為だけに着るはずだった。

任務でなければ、リリィ以外の女と挙式の真似事さえしたくなかった。


だが、これも完璧主義のサガ──



「酷い……私を守るって言ったのに……」



「!」



ま、待て。

あり得ない……だろ……?



「命に代えても守るって……嘘だったの……?」



錯覚……だよな……?



「他の女性には言えて……私には言えないの……?」



ほ、本物……か?

いや、まさか……。


半信半疑だが、ショックは大きい。

力が抜け、その場に座り込んだ。



「ねえ……何とか言って……ダン……。」



「!!!」



ベールを上げた花嫁を見て目を見開く。


いるはずのない人物の出現。

錯覚だと思い込んでいたが、本当に本物のリリィだったとは……



「う……や……やられた……」



完敗だった。

まさかリリィが加担していたとは……。

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