真の目的を知ったお兄ちゃん

【アレが破壊的で呆れるお兄ちゃん】

新婚旅行から戻り、数日が経った頃。

夕食の席でシルビアが旅行に行くと言い出した。


その話で色々と揉め、席を立ったシルビアを追ってシャスタも出て行った。



「どうしよう、言い過ぎちゃった……。」



ソフィアが自分を責めて落ち込んでいる。

マイケルさんも同様に落ち込んでいた。



「大丈夫よ、2人とも。お嬢様の事はシャスタさんに任せておけば心配ないわ。」



クリスさんが笑顔で2人を宥めている。

彼女はこの中で一番長くシルビアと暮らしている人物だ。


三度結婚したシャスタよりも長い付き合いで、マクファーソン時代を共に生きた彼女は誰よりもシルビアの事を知っている。



「でも、今のママって昔と違うでしょ?許してくれないかも……。」



「大丈夫。性質は変わらないものよ。明日になれば元気に顔を出すわ。」



言い切るクリスさんを見て、ソフィアとマイケルさんに笑顔が戻った。



「新婚旅行、楽しめると良いな。離れ離れだった分、2人でのんびり過ごすのも良いだろう。」



「そうね。でもバカップルにはなって欲しくないわ。新婚旅行ってハメを外しそうだし。」



ソフィアの言葉に苦笑した。

俺達もそれに近かったからな。



「バカップルは仕方ないんじゃないの?俺達もバカになってたしな~。」



新婚なんだからとレイフが笑っていた。



「気をつければならないんじゃない?ダン達はならなかったでしょ?」



「なぜそう思う?俺達も新婚だし、それなりに浮かれていたが?」



「うわっ、ダンもバカップルになったんだ!新婚さん恐るべし!」



意外すぎたのか、ソフィアが身を引いていた。



「あー、やっぱり心配だわ。普段でもバカップルなのに、新婚旅行で浮かれたら人前でどこまでやっちゃうのやら……」



それを聞いて、みんながハッとした。

多分、全員がこう思ったに違いない。


やり兼ねないと──。



「あ、明日続きを話すと言ってたから、その時に注意すれば良いわ、ね、お父さん、」



「そ、そうだな、シャスタ君に言えば大丈夫だろう、」



頷く家族達。

シャスタならばと、これも全員思ったに違いない。


ひきつり笑いでこの話は終わり、食事を終えた家族はそれぞれの部屋に戻って行った。



「さすがに人前ではやらないだろ……。」



部屋に戻り、不安を拭うように呟いた。

だが、リリィの言葉が俺を不安にした。


シヴァとパールヴァティーの熱愛ぶりは神話でも語られているらしい。



「聖仙の前で何百年も愛し合ってたって言うから……」



「やり兼ねない……か。」



「でも、シャスタさんはシヴァ神様とは真逆みたいだし、大丈夫かも、」



ため息をつく俺に、取り繕うようにリリィが言う。



「そう願うよ……。」



シャスタはリリィに聞いた破壊神とは似ても似つかない。

穏やかだし癇癪持ちでもない。


シルビアを溺愛するのは昔からの事だと言うし、それに関しては化身になった事とは関係ないらしい。


ただ、再会の喜びが強すぎて周りが見えなくなっているだけだろう。

しっかりと言い聞かせれば、シャスタなら衝動を抑えてくれるはずだ。


そう思い、少しは安心していたのだが──



「ママは!?もしかして昨日の事で!?」



朝食の席に現れないシルビアに、ソフィアとマイケルさんが慌てていた。

体調を崩したのかと尋ねるが、元気だと言う。


ベッドで朝食をとるらしく、生意気だとレイフに言われていた。

色々あるとシャスタが言うと、察したらしいリリィが立ち上がった。



「分かりました!ご懐妊ですね!?」



シルビアが妊娠したと喜ぶ家族達だが、すぐに否定された。


これはあれか。

甘やかしているだけか。

俺達もそうだが、シャスタもそうなればシルビアの為にはならない。


この時、ハウエル家全員がそう思ったらしい。

ならば今がシルビア離れのし時だろう。



「まあ、そういう事だ。だからお前は甘やかすな。連れて来い、あいつ。」



そう言った俺の言葉に、シャスタが少しずつ理由を話し始めた。

俺達が全てを理解した時、食卓は騒然とした。



「う、うわ、神の領域だ……。お前、妹を破壊するなよな……。」



レイフの言う通りだ。

そこが破壊的でどうする。



「さすが破壊神のシヴァだな。妻まで破壊するとは恐れ入った。」



呆れた俺が嫌みを込めてそう言うと、すぐにシルビアの声が聞こえてきた。



〔お兄ちゃん達!シャスタを責めないでよ!〕



まるで見ていたかのようなタイミングに、聞けばテーブルの下にドゥンがいると言う。


偵察に盗み聞きかと問えば、まったくの偶然だったらしく……だが、盗み聞きは盗み聞きだとたしなめた。


だってと言い訳するシルビアだが、その内容ときたら──ここにいる当事者のシャスタを辱める内容だった。



「お前が一番苛めてるじゃないか。まったく、破廉恥娘が……。」



お腹がすいたと言うシルビアの要望に応え、シャスタが朝食を持って出て行った。


残った家族が話し合い、全員がシルビア離れを宣言する。

すぐには難しいかも知れないが、これからは厳しく接する事にしよう。



「なあ、兄貴の車は改造しないのか?」



ガレージで整備をしているとレイフに問われた。



「必要ないだろ。お前と違ってずっとこの車に乗るつもりはないからな。」



改造してゼットのようになれば手離す事はできなくなる。

新しいデザインの車を見れば心は動くし、年を取ったら落ち着いた車にしたいとも思っている。



「けど大事にしてんだろ?俺並みに整備点検欠かしてねーし。」



「当然だろ?乗るなら大事に乗らなきゃな。」



「だったら改造してずっと乗ってりゃ良いじゃん。」



「喋る乗り物はキティとゼットだけで充分だ。」



二台が会話しているところを見た事があるが、何とも不思議な光景だった。

そこに俺の車も加わり会話を──なんて、想像もしたくない。


俺の車は寡黙でいい。

というか、喋らなくていい。



「あっ、お前!いくらなんでももう動けるだろー。」



レイフの声に振り向けば、シャスタに抱かれたシルビアの姿があった。

しかも、横抱きにされたままごろごろ甘えている。

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