【結婚の準備をするお兄ちゃん】

食事を終えた俺達は公園を散歩していた。



「優勝は決まりよね。戦いの女神様と破壊神様が負けるはずないし。」



「そうだな。まあ、俺としては勝敗より怪我が心配だが……。」



格闘技大会は殴り合いの勝負だ。

怪我をするなと言う方が無理だろうが、今のところあいつらは無傷で戦っている。


だが、決勝が近づけば相手も強者になる。

万が一シルビアが怪我をしたら──



「ダン、座りましょう?」



「ん?ああ……。」



ベンチに座るとリリィの解説が始まった。


俺を安心させようと、ドゥルガーとシヴァの強さを説明している。

宗教の違うインドの神なのに、随分と詳しくなっていた。


多分リリィに宗教は関係ないのだろう。

彼女にとって神は神であり、敬うべき存在なんだろうな。



「そうか。それなら安心だな。」



「でしょう?最強の女神様には怪我も敗北もあり得ないのよ。」



断言するリリィに安心したと答えたが、不安はそう簡単に拭い去れるものではない。


そんな俺の顔を見て、リリィが微笑む。



「それでも心配なんでしょう?ダンにとっては溺愛する妹ですものね。」



「まあな……。」



やっぱり見透かされている。

リリィには本当に嘘が通用しないな。



「なあ。君が嘘を見抜ける相手は俺だけか?」



「え?」



いきなりの話題変更に首を傾げるリリィ。

説明すると笑っていた。



「そうね……他の人の嘘も何となくだけど分かるわ。ふふ、ダンに関しては完璧かも。」



「完璧って、」



何の能力だそれは。

些細な嘘も見抜けるって事じゃないか。



「でも、言わなければ見抜けないわよ?プロポーズには驚いたもの。」



なるほど。

嘘を言えばバレるが、何も言わなければバレないって事か。



「そうか。だったらサプライズは楽しめそうだな。」



「ええ。あ、嬉しいサプライズなら大歓迎だけど……」



「はは、リリィにトリックは仕掛けないさ。変装が通用しないからな。」



そうだ。リリィには変装も通用しない。

思い返してみれば、大学の友人達の変装も見破っていた。


俺の入院中にナースを驚かせて楽しんでいた友人達だが、初対面では引っ掛かったリリィも二度目からは全く通用しなくなった。


リリィには何か特別な能力が備わっているに違いない。


ああ、きっとそうだ。

信心深いリリィへの、神の加護かも知れないな。


そうとでも思わなければ……トリックスターと自負する俺のプライドは失われてしまう。



「私には分かってしまうけど、ダンの変装は完璧だと思うわよ?私以外みんな騙されている訳だし。」



「はは、また読まれたな。そんなに顔に出てるのか?」



人には良くポーカーフェイスだと言われるんだが……。



「いいえ、微かな変化よ。ふふ、私にしか読めない表情だと思うわ。」



愛の力だと笑うリリィ。

それは嬉しい言葉に他ならない。



「そこまで愛された俺は幸せ者だよな。結婚したら何倍にもして返してやるからな。」



「もう貰ってるわ。私も幸せ者よね。」



微笑み合って寄り添って。

ダラスにいた頃のように公園での一時を楽しんだ。


それからホテルへ戻ろうと駐車場に向かったのだが──



「チッ、やられた……。」



車に付けられたひっかき傷。

周りを見れば数台の車が被害に遭っていた。

ダラスよりも都会なだけあり、悪ガキの質も悪いらしい。



「盗難に遭わなかっただけマシだと思わなくちゃ。ロスで暮らすんですもの、この位の覚悟は出来てるでしょう?」



「……そうだな。」



正直、覚悟は出来ていなかった。

こんな事をされるとは思ってもいなかった。

ナイト2000もキティも、全くの無傷でいるのだから。


ああ、そうか。

あの二台は特殊な塗装を施されているんだった。


俺の車にも施して貰おうか……。

そうすれば車を気にせずリリィとの散歩を楽しめる。


よし、そうしよう。

あいつらが帰って来たら頼んでみるか。



「諦めついた?」



「いや。対策を思いついたんだ。はは、帰ろうか。」



自己解決した俺を見て微笑むリリィ。

俺が良いならそれで良いと、笑って車に乗り込んだ。


ホテルに到着し、リリィの淹れたハーブティーを飲みながら今後の事を話し合う。



「両親とシルビア達が戻ったら相談して式の日取りを決めるからな。」



「ええ。日取りが決まったら両親に知らせるわ。」



式の話は決まり、住まいの話に入る。



「えっ、ナイト家に!?」



「ああ。問題有りか?」



「有りよ!」



即答され、何故だと問う。

部屋数もたくさん有り、リリィが増えたくらいでは何の問題もない屋敷なのだが……



「神々と同じ屋根の下で暮らすなんて畏れ多いわ!」



……そっちか。

神々と言ってもシルビアとシャスタなんだがな。



「逆に喜ぶぞ、シルビアは。たくさんの家族に囲まれる事があいつの幸せなんだよ。」



その説明でリリィは受け入れた。


こうして、結婚の準備は少しずつ進んでいたのだが──


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