【影響されすぎのお兄ちゃん】

「は?シャスタがシヴァ?」



「らしいぜ。何かもうバカップル全開だったよ。」



ツーソンから戻ったシルビアがそう言っていたと、レイフが呆れ気味に報告してきた。


シヴァはドゥルガーの夫であり、破壊の神だとリリィに聞いている。



「シャスタがシヴァとはな……。」



当然とも言えるが、あのシャスタと破壊神とではイメージが違いすぎる。



「後な、あいつら顔出しする事になったってさ。潜入捜査は兄貴メインになるんじゃねぇか?」



「顔出し?」



聞けば、地方紙に実名入りで写真が載ったという。

そんな情報が流れたら二度と潜入捜査は出来ない。


だからか。

潜入捜査を諦め、表の仕事に徹する事にしたんだな。



「好きだったのにな、潜入捜査。」



「ま、その分格闘技大会を楽しむらしいぜ。」



転んでもただでは起きないってやつか。

落ち込んでいるかと思ったが、それなら大丈夫だろう。



実際、2人は楽しんでいた。

取材を受けたり写真集を出したりサイン会をしたり。

依頼も増え、人助けが使命の2人は喜んで任務をこなしていた。


仕事も家庭も順調だと言えるだろう。


……頃合いだな。



「リリィ、10月いっぱいで辞められそうか?」



〔え、それって、〕



「こっちに来て欲しいんだ。」



瞬間、耳元で叫ばれた。

声にならない声。

悲鳴に近い黄色い声が響いた。


まあ、これは予測の範囲内ではある。


ドゥルガーとシヴァに会えるとなれば当然の反応だろう。



〔ダンと結婚できるのね!〕



「え、」



やられた。

まさかそっちを喜ぶとは思わなかった。


予測が外れて嬉しく思うのは、リリィがターゲットの時だけだと改めて思う。



〔ドゥルガー様とシヴァ神様にも会えるのよね!?〕



「はは、そうだな。」



幸せだと繰り返すリリィ。

まだ実現していないのに気が早いだろう。



「幸せを感じるのは結婚してからにしろよ。待たせた分、何倍も幸せにするつもりなんだからな。」



〔っ、ダンったら……〕



「覚悟もしておけよ。会ったら2ヶ月分の愛を受け取ってもらう。」



〔ダン……〕



影響されすぎだと言われたが、シルビア達は関係ない。

俺がそうしたいからそうするだけだ。


ともかく、こうして俺達も未来に向かって歩み始めた。


俺達が再会したのは11月3日。

シルビア達の試合がない日だった。



「ダン!会いたかったわ!」



リリィが滞在するホテルを訪ねると、ドアを開けた瞬間飛びついて来た。



「俺も会いたかったよ。」



2ヶ月ぶりのスキンシップに感動すら覚える。



「っ、リリィ、」



いきなりの口づけに戸惑った。

どうやら、久々に会った事で積極性が増しているらしい。


勿論、大歓迎なのでキスを返し──



「キスだけじゃ終われないな……。」



「ええ、終わるつもりはないわ。」



ふふっと笑うリリィに、フッと笑い返す。

そのまま彼女を抱き上げベッドに直行した。



「ダン、愛してるわ……。」



「俺も愛してる……。」



愛を囁き愛し合う。


想像以上に長かった離れ離れの2ヶ月間。

その時間を埋めるかのように、俺達は愛し合った。



俺を見つめる瞳。

愛を囁く唇。

俺に触れる細い指。

俺の動きに合わせて揺れる髪。


その全てが愛おしく感じる。


離れていた時間がそう思わせるのか……。

このままずっと触れ合っていたいと思ってしまう。


ああ、そうか。

だからシルビアとシャスタは──


2人の過激な愛情表現を、身を持って理解した瞬間だった。



「ごめんなさい……。2ヶ月ぶりだから……」



事を終えた後、リリィが謝罪して来た。

その謝罪の意味を知り、フッと笑う。



「求められるのは大歓迎だ。俺も同じだしな。身体の方は大丈夫か?」



頷いたリリィの額に口づける。


2ヶ月ぶりの行為は少し暴走気味で……リリィには無理をさせてしまった。



「私も……求められるのは大歓迎よ。このけだるさが幸せ……。」



そう言って寄り添って来たリリィを抱き締めて──いや、マズいな。



「俺も幸せだが、このままじゃ追い打ちをかけそうだ。時間も時間だし、食事に行かないか?」



「ええ。でも、もう少しこのまま……」



「構わないが、俺に食われても文句言うなよ。」



「言わないわ。愛されて文句を言うはずが──」



俺の顔を見て固まるリリィ。

冗談だと思っていたらしく、本気だと分かって焦っていた。



「はは、だから出掛けような?」



「そうする……。」



リリィが戸惑いながらも準備をしている。

時折視線を感じ、目が合うと赤くなっていた。



「影響されすぎね……。」



そんな呟きが聞こえて苦笑した。


この2ヶ月で、予想以上に2人の影響を受けているらしい。

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