家族の認知度に驚くお兄ちゃん

【女神の化身となった妹】

「お前も行くのか?俺だけで良いだろ。」



「いや、父さんがさ、車よりゼットが良いって言ってんだよ。」



「ああ……。何気にバイク好きだよな、父さんも。」



そんな要望に応え、2人で両親を迎えに行った。



「ダンちゃん、ダンちゃん、シャスタちゃんってどんな子だった?」



「会っていきなりそれか?ったく、好奇心の塊だよな……。」



呆れる俺に返事を促す母親。



「自分の目で確かめるのが一番だろう?それより父さんの反応はどうだった?」



「どん底から一気に浮上した感じね。あの顔、ダンちゃんにも見せたかったわ~。」



うふふと笑う母親。

よほど良い顔をしていたのだろう。

見られなかった事が悔やまれる。



「……見たかったよ。」



「またチャンスはあるわ。それより早く行きましょう。シルビアちゃんに会いたいわ……。」



一転してしんみりし出した。

明るく見えたのは空元気だったらしい。



「すぐ会えるよ。レイフ!行くぞ!」



「おう!」



バイクの話で盛り上がっていたらしい2人に声をかけ、ナイト家目指して出発した。


母親はずっとシルビアとシャスタの事を聞いていたが、会ってからのお楽しみだとごまかした。


まあ、小さなサプライズにはなるだろう。



「そうそう、シルビアちゃんにはシャスタちゃんがいるから良いんだけど……ダンちゃんとレイフちゃんはどうなの?」



「どうって……」



なぜ俺の心配をしてるんだ?

レイフはともかく、俺にはリリィがいるというのに。



「レイフちゃん、4年前から恋人がいないでしょう?ダンちゃんも」



「母さん、俺の心配は」



「あらやだ!あれがシルビアちゃんのお家なの!?」



ナイト家を見た途端、母親の意識はそっちに行ってしまった。

かぶりを振り、ガレージへと向かう。



「あっ、お父さんズルい!」



バイクから降り、シルビアを抱き締める父親を見て、母親が悔しがっている。



「シルビアは逃げないだろ?それよりほら、あれが」



シャスタを指差し、母親の反応を見ようとしたのだが……

車を停めた途端、母親は飛び出して行った。


気持ちは分からなくはないが、サプライズが先送りになり面白くない。

ため息をつきながら、俺も車から降りた。


……とりあえず2人を止めよう。

あの溺愛ぶりにシャスタ達が呆れている。


シルビアから離れた母親の興味は、シャスタではなくソフィアに移り……

その後でようやくシャスタを見て感動していた。


そんな母親の反応よりも驚いたのが白虎の登場だった。

そして、シルビアが女神の化身だという衝撃の告白。


申し訳なさそうにしていたシルビアだが、女神の化身でも俺達の妹である事に変わりはない。

何も変わる事なく、これまで通りの生活は続いて行く。


唯一変わったのは──



〔えっ、シルビアちゃんが女神様!?〕



「ああ、ドゥルガーっていう戦いの女神の化身だそうだ。」



電話の向こうで沈黙が続いた。

というか、息づかいが荒い。



「リリィ、大丈夫か?」



〔だ、大丈夫な訳ないわ!ダンこそちゃんと理解してる!?〕



「理解も何も、シルビアはシルビアだろう?女神の化身である前に、あいつは俺の妹だからな。」



罰当たり。

そう言われて肩をすくめる。


信心深いリリィは、この直後からシルビアに対する態度を改めた。

何かの使命を持った奇跡の子ではなく、女神そのものとして崇めている。


電話のたびにシルビアの様子を尋ねるリリィに、俺は寂しさを覚えるようになった。



〔ダン、ドゥルガー様に変わりはない?怪我とか病気とかしていない?〕



「元気いっぱいだよ。それより、一応報告しておくが今度初任務で潜入捜査を」



〔良かった、変わりなくて。ダン、これからも守ってあげてね。ドゥルガー様に怪我をさせたりしたらシヴァ神様の怒りに触れるわよ?〕



「あ、ああ。」



俺の話は耳にも入らないらしい。


信心深さとはやはり残酷なものだ。

フィアンセである俺よりも、女神の化身であるシルビアが優先されている。


俺よりもシルビアなのかと、離れている分余計寂しくなった。



〔ダンも病気や怪我には気をつけてね。潜入捜査の成功を祈ってるわ。〕



「っ、ちゃんと聞いてたのか……。」



〔当然でしょう?ダンは私にとって大切な人ですもの。〕



だが、シルビアを優先している。

俺よりも、俺の妹のシルビアを──



〔変な嫉妬はしないでね。〕



「!」



見透かされている!

俺の変装だけでなく、考えている事までお見通しなのか!?


リリィは一体何者なんだ……?



〔神様と人間は比較できないでしょう?だから神様に嫉妬する必要はないのよ。〕



言いたい事は分かるが、妹として実在しているから複雑なんだよな……。



〔複雑な気分でしょう?〕



「っ、なぜ分かるんだ?君は俺の変装を見破り心も読む……。本当は超能力者なのか?」



無意識にそんな疑問を口にしていた。

一瞬小さく驚いたリリィが、クスッと笑い出し……



〔私は普通の人間よ。ダンの気持ちが分かるのは、私もシルビアちゃんに嫉妬していたから。〕



リリィがシルビアに嫉妬?

そんな素振り、見せた事もなかったのに。



〔そんなに意外だった?〕



また読まれた……。



〔恋人より妹を優先するんだもの……嫉妬して当然でしょう?〕



言われてみれば確かにそうだな。

俺なりにリリィを愛していたが、妹を優先されたら嫉妬するのは当たり前か。



「知らず知らず辛い思いをさせていたんだな……。今もこんな状態だし、本当に悪いと思ってる。許してくれるか?」



〔許すも何も、今は何とも思ってないわ。シルビアちゃんは奇跡の子だったし、今ではドゥルガー様だもの。崇める対象であって、嫉妬の対象ではないでしょう?〕



リリィから見ればそうかも知れないが、やはり複雑だ。


だが、今までの事を考えると俺には嫉妬する権利はない。

リリィが言うように嫉妬するのはやめよう。



〔ダン?大丈夫?〕



「ああ。もう変な嫉妬はしないから安心してくれ。」



〔ええ。ダン、普通の嫉妬はしても良いわよ?〕



ふふっと笑うリリィにフッと笑い返す。



「当然だ。シルビアの言葉を借りれば嫉妬は愛の証し。妬かない訳がないだろう?」



〔ダ、ダンったら、〕



照れたリリィが言葉に詰まっている。

はは、影響受けてるな、あいつらに。


寂しさに始まった電話はこうして終わり、リリィとの会話で英気を養った俺は初の潜入捜査に臨む。

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