【ブルース・リーのような綺麗な飛び蹴り】
「シャスターっ」
そこにシルビアの声が聞こえて来た。
はは、覚悟しろよ。
次はお前の番だ。
立ち上がり、シャスタに抱きついてやった。
「ちょ、や、やめて下さい!」
慌てて押し離そうとするシャスタ。
やめる訳ないだろう。
あいつに罰を与える必要があるんだからな。
だが、シャスタには少し黙っていてもらおう。
そっと顔を寄せ、耳元に囁く。
勿論、男の声で。
「お前、合格……。」
「え?……ええっ!?」
その反応は完全に女だと思い込んでいた証拠であり……
予想通りの反応に満足した。
さて、最後の仕上げをするか。
「んっ──」
シルビアの嫉妬を誘う為、シャスタの唇を奪ってやった。
ショックで動けないシャスタと、立ち止まるシルビア。
さあ、泣け。
連絡をしなかった罰だ。
だが、次の瞬間あいつは猛スピードで走り出した。
なるほど。
シャスタを責めながら泣く訳だな。
追い討ちをかけようと、にっこり笑って手を振った。
シャスタは固まったまま茫然としている。
シルビアの後方で女が何か叫んでいたが、気にせずシルビアの到着を待っていた。
は?え?
と、跳んだ……?
ジャンプしたシルビアが蹴りの体勢で跳んで来る。
「パパーーっ!」
気づいた時にはシャスタに突き飛ばされていた。
「どういうつもり……?フッ、良いわ……。貴方は後回し……。まずは……この女よ!」
何だこいつは!
シルビアのそっくりさんか!?
凄まじい殺気じゃないか!
「死になさい!」
「待って!待って下さい!この人は──ぐっ!」
はあ!?
シャスタを殴った!?
って、吐いてるじゃないか!
こいつ、やっぱり偽者──うっ、
胸倉を掴んだシルビアの冷酷な微笑み。
覚悟を問われ、混乱したまま首を振った。
「フッ、シャスタに手を出すからいけないのよ。死んでね。」
いやいやいや、
待て待て待て、
気づけよ俺に!
この時ほど、自分の完璧な変装を恨めしく思った事はない。
「待っ……その人……男……」
そうだ!シャスタの言う通り俺は男だ!
というか、お前の兄ちゃんだ!
計画とは違うが、ウィッグを取ってニッと笑って見せた。
種明かしをする時の俺の顔を見れば分かるだろう。
「! ダ──」
目を見開き、驚愕の表情を浮かべたままシルビアは倒れた。
というか、気絶した。
初めてのトリックが余程ショックだったんだろう。
軽い悪戯のつもりだったんだがな……。
かぶりを振り、立ち上がる。
そこへレイフが驚いた顔でやって来た。
一難が去り、平常心を取り戻した俺は先に来ていたレイフに尋ねた。
「何なんだよ、こいつのこの暴走は。本当にシルビアなのか?」
「恐ぇ~よ、こいつら……。シャスタ以上じゃないか、シルビアの奴……。」
シャスタ以上……?
という事は、この優しそうなシャスタにも恐ろしい一面があると言う事か。
そのシャスタを見ると、少し老けたシルビア似の女と話していた。
直後、シャスタも気を失った。
「あんた達やり過ぎよ!結局パパが痛い目みてるじゃないの!」
怒り方もシルビアに似ていた。
なるほど、彼女がソフィアか。
「お、俺は関係ねぇぞ。兄貴が一人でやったんだからな。」
ソフィアの迫力にレイフが慌てて弁解していた。
それよりも、俺はこの結末に不満だった。
「想像を絶する結末だな。こいつの人格を試して、シルビアに嫉妬させるだけの計画だったんだが……。俺の予想では泣くだけで終わるはずが、何なんだこの結末は。」
不満をぶちまけているとソフィアに怒られた。
弁解しつつ謝罪して、自己紹介する。
しばらく3人で話していると、シャスタが目を覚ました。
気絶する程の威力で殴られたのに、笑って話している。
ソフィアとシャスタの会話を聞き、俺は改めてシャスタを認めた。
俺の謝罪を受け、シャスタは言った。
シルビアの嫉妬が予想以上だったのだから気にするなと……。
確かに、計画の失敗はシルビアの過剰な嫉妬にあった。
失敗を気にするのはやめよう。
ああ、シャスタを騙した事もな……。
その後、シルビアが目覚めるまで4人で話していたのだが、ソフィアにFLAGで働かないかと勧誘された。
まあ、悪くはない。
少し考えてから結論を出そう。
それからすぐにシルビアが呻き出し……意識のないシルビアにやりすぎた事を謝罪した。
目覚めたシルビアとシャスタの様子は──色々とショックであまり語りたくない。
俺達の知らない女の顔。
幼かったシルビアの大人の一面。
極めつけは『大嫌い』のあの言葉だ。
レイフが言うには最短記録を更新したらしい。
まあ、色々あったが、シルビアにも勧誘されFLAGに入る事にした。
ちなみに、レイフも会社を辞めてFLAGに入る事になった。
その直後、事態は急変する。
内臓を傷めたシャスタを連れ、慌ただしく病院へと向かうシルビア。
そこには俺達の知らないシルビアがいた。
何かとショックな事が続いたが、とりあえずシルビアに会えてほっとした。
シルビアからの連絡を待つ間、ナイト家で待つ事になったのだが……
外見も凄ければ中も凄かった。
ナイト財団の総帥だと言うから、マイケルさんは余程の資産家なんだろう。
マイケルさんやソフィアに、これから務める事になるFLAGの話を聞きながら、シルビアからの連絡を待ち──
大事には至らず、処置をしてから帰ると報告を受けた。
俺のせいだった事もあり、これでシルビアに嫌われる事はないとほっとした。
戻ったシルビアは完全に大人の女だった。
俺もショックだったが、レイフはかなりショックだったらしい。
しばらく恋人がいないせいもあり、耐性が無くなっていたんだろう。
聞いていたよりも濃厚なシルビアとシャスタの恋愛。
三つの時代を変わらず愛し合う2人には感動すら覚えた。
俺もリリィとそんな夫婦になりたいと──
「お兄ちゃん!ダン兄ちゃん!みんなで暮らそうよ!」
駆けて来たシルビアが興奮気味にそう言った。
考え事をしていた為、何の話か理解出来なかった。
詳しく話を聞くと、両親を呼び寄せて一緒に暮らそうと言っている。
そんな提案をされたらサプライズにならないだろう。
反応は期待できないが、移住するつもりだった事を話した。
案の定、2人の反応は薄かった。
多分、一番反応が期待出来るのは父親だろう。
その反応を見られないのが残念だ。
小さなショックを受けた俺に、シルビアは更に追い打ちをかけた。
ナイト家はシルビアが建てた屋敷であり、マクファーソンが資産家だった事を知らされ驚いた。
何が『天才科学者で武術の達人』だ。
まんまとしてやられたじゃないか。
意図せず驚かすとは、立派に母親の遺伝子を受け継いでいる証拠だな。
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