【謎の女が出向きます】

レイフと2人でロスを目指し、到着した31日は旅の疲れを癒やした。


翌日、レイフに別行動をするからと話し、一人でナイト財団本部に向かわせた。



なぜ財団本部かというと、FLAGにシルビアの所在を尋ねても無駄だったからだ。


潜入捜査を主とする組織の為、答えられないと断られ……


それならば直接出向くまでだとレイフが息巻き、大元である財団本部に行く事にした。



「財団本部で身分を証明したら教えてもらえるだろう。もしシルビアが居たら連絡してくれ。俺は他の場所をあたってみる。」



「例の海岸とか怪しいよな。んじゃ、行って来る。」



レイフを見送った後、俺は部屋に留まった。

FLAGの断り方から、そこに居るのは間違いないと確信したからな。


連絡が無いのは、多分マクファーソンのうっかりが原因だろう。



「シャスタを試すついでにシルビアにも罰を与えてやる。」



はは、嫉妬させて泣かせるくらいなら軽い罰だよな。

あいつを騙すのは心苦しいが、親離れもした事だし……少しぐらいのショックなら平気だろう。


レイフの連絡を待たずに、俺はメイクを始めた。

今回はビューティーメイクを施すだけの簡単な変装で騙してやろう。



〔やっぱ居たぞFLAGに。これからあいつの家に行ってみる。〕



「そうか。今海岸にいるから……そっちに着くまで少し時間がかかる。」



〔焦って事故んなよ?シルビアは俺に任せて、安全運転で来てくれ。〕



「ああ。頼んだぞ。」



電話を切り、車を走らせる。

既に近くまで来ている事はレイフにも内緒だ。



「さて。一芝居うつか。」



この格好じゃ身分は証明できない。

だから依頼人としてFLAGを訪問するつもりだ。



「FLAGに御用でしたら、あちらの施設へどうぞ。今では経営が別なんですよ。」



「そうなんですか?てっきりナイト財団の管理だと思って……失礼しました。」



「どうぞお気になさらずに。そうおっしゃる方も多いですから。」



シルビアの話とは大分違う。

20年でFLAGも変わったんだろう。



「それじゃ失礼します。早く何とかしてもらわなくちゃ……。」



焦りの表情を浮かべ、財団本部を後にする。

向こうの施設と言っていたから、とにかくそっちの方に行けばあるんだろう。


自然の残る広大な敷地をFLAG目指して歩いた。



……何だこのデカい屋敷は。


ここがFLAGか?

いや、施設らしくないから違うのかも……



「行って来まーす!」



「!」



家の中から飛び出して来た女の子に驚いた。

思わず声を上げそうになったが、今は女になりきらなければならない。


声色を変えたまま、子供に尋ねる。



「こんにちは。あなた、ここの子?」



「うん。お姉さん、家にご用なの?」



「家って?」



「FLAGだよ?」



やっぱりここがFLAGなのか?

というか、まさかシルビアが縮んだんじゃないだろうな。



「もしかしてあなた、シ」



「ディア!おいてかないでよ!」



今度は男の子が飛び出して来た。

こんにちはと声をかけると、凝視された。


男だとバレたか……?



「おばあちゃんみたい……。」



「お、おばあちゃん……?」



まさかの発言に、若い女の扮装なのにと戸惑った。



「ティム!だめだよ!ごめんなさい、お姉さん。お姉さんがおばあちゃんなんじゃなくて、私達のおばあちゃんみたいに綺麗だって言いたかったの。」



そういう事か。

ようやくディアの正体が掴めたぞ。



「あなた達、シャスタさんのお孫さん?」



あえてシルビアの名前は出さない。

あくまでもターゲットはシャスタの方だからな。



「うん。おじいちゃんを知ってるの?」



「ええ。今日はシャスタさんに話があって来たのよ。」



「そうなんだ。じゃあ一緒に行こ?いくせい部に案内してあげる!」



子供達に手を引かれ、いくせい部とやらに走って向かう。

だが、このまま行っては意味がない。



「ちょっと待って、お姉さん疲れちゃった、」



肩で息をし、疲れをアピールした。

若い子には勝てないと笑いながら、シャスタを呼んで来て欲しいと頼む。


頷いた子供達が走って行き、しばらくすると男が駆けて来た。

その姿を確認し、演技する。


しゃがみ込んでいる俺を見て、そのスピードが上がった。



「大丈夫ですか!?どうしたんです!?」



「む、胸が苦しくて……」



「ちょっと失礼!」



その行動に驚いた。

何のためらいもなく胸のボタンを外している。

直後、手際良く処置を施された。



「はい、これで少しは楽になりますよ。」



なるほど。

下心はまったく無しか。



「ありがとうございます。おかげで楽になりました。」



「良かった……。あれ……?」



ジッと顔を見られ、内心焦る。

元コンピュータには変装が通じないのかも知れない。


ならば誤魔化そう。

気づかれる前に計画を進めてやる。



「あの、是非お礼をしたいのですが。」



「とんでもない、当然の事をしたまでです。」



笑顔に笑顔を返され、即断られた。

見返りを求める事もせず……か。



「では、お礼のキスだけでも……。」



どうだ?

女の誘惑に勝てるか?



「そ、それは本当に結構です、」



本当に迷惑そうだった。

シルビアの言う通り、シルビア一筋なんだな。

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