【情熱的になってたお兄ちゃん】

「シルビアちゃん、シャスタちゃんに会えたら連絡するのよ?」



あっという間に4日が経ち、出発の日がやって来た。



「幸せにならなかったら許さないからな。」



「元気でな。お前の幸せを祈ってる。」



ほんの数日の別れだと分かっている俺達は笑顔だった。



「シルビア~、行かないでくれ~、」



何も知らない父親は泣きじゃくっていた。

少し可哀相だが、その分真実を知った時の喜びは大きくなるだろう。


父親の涙を見たシルビアも泣き出して。



「じゃあ、行って来ます……。またすぐ戻って来るから……。すぐ会いに来るから……。」



涙を流しながらこの家を後にした。


シルビアの姿が見えなくなるまで見送った俺達は、脱力している父親を抱えて家に入った。



「ちゃんと会えると良いわね……。」



「大丈夫だろ?前世の記憶があるんだから、住んでた家に行けば絶対会えるって。」



「ああ。後はシルビアからの連絡を待つだけだ。」



連絡が来たら俺達も出発する。

先に俺達が行き、家を探してから親を呼ぶ事になっている。



「うう……シルビア……シルビア~……」



「父さん、しっかりしろよな~。居なくなる覚悟、できてなかったのかよ。」



やれやれと肩をすくめるレイフ。

後を追うお前が言える事かと、かぶりを振る俺。



「あなた、すぐに会えるから元気を出して。」



母親は何食わぬ顔で父親を慰めていた。

まあ、確かにすぐに会えるんだが……。


そんな母親も、何気に演技力が高かったりする。

俺は勿論だが、この4年間のシルビアを思い返すと、やっぱり母親の遺伝なんだと改めて思う。


こうして父親を慰めながら、俺達はシルビアからの連絡を待っていた。



「え、連絡が無い……?」



「ああ。早ければ25日の夜にはと思ってたんだが、5日経っても音沙汰なしだ。」



どうしたのかと心配するリリィ。

何か思いついたのか、顔を上げた。



「電話してみたら?携帯、持ってるんでしょう?」



「いや……」



16歳になったシルビアは携帯を解約した。

セキュリティーに不安があり、信用できなかったらしい。


あいつが前世で使っていたのは、完璧なセキュリティーを誇る独自の通信機だそうだ。



「だったらFLAGに連絡してみるのは?」



「2人が会えていなかった場合、情報を得たシャスタがこっちに飛んで来る可能性がある。行き違いになったら可哀相だろ?」



「そうね……。でも心配だわ。まさか事故に遭ったとかは……」



「その可能性は低いな。事故なら警察から連絡が入るからな。」



頷いたリリィが俺の顔を見て苦笑した。

その意味が分からずにいると……



「どんな時でも冷静よね。私なら不安で潰れちゃうわ。」



「そう見えるか?これでも潰れる寸前なんだが。」



連絡を待つだけの俺達は限界を迎えていた。

ちなみに、真っ先に潰れたのは父親だった。



「そういう訳で、連絡を待たずに行く事にした。出発は明日の午後だ。」



一瞬驚いたリリィがクスッと笑う。



「あら、前日に報告?」



「悪い。それだけ焦ってるって事だ。」



「ふふ、理解したわ。無事だと良いわね。」



冷静に見えても、やはり俺は俺なんだと理解したらしい。

妹を溺愛する俺が、冷静でいる方がおかしいと納得していた。



「シルビアに会えたらそのまま向こうにいるから、」



「ええ、呼んでくれるのを待ってるわ。」



言わずとも伝わっていた。

本当に完璧な信頼関係だと嬉しく思う。

リリィは絶対的な信頼が置ける最高のフィアンセだ。



「しばらく会えないかも知れないが、離れていても愛してるからな。」



「ええ。シルビアちゃん達に比べたら数日くらい何ともないわ……。」



あいつらの4年に比べたら俺達の数日は何の障害にもならない。

だが、ダラスとロスは簡単に会える距離ではない。


別れを惜しむように、この日は一日中リリィと過ごした。



後で思い返せば、あの日はかなり影響されていた。

幾度となく聞かされたシルビアとシャスタの愛に……。


激しいその愛に影響され、同様にリリィを愛していた。


今思えば恥ずかしい限りだがな。

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