【ハウエル家移住計画】

あれから最長記録を更新する事もなく、普段と変わらない生活が続いて行った。


変わった事と言えば、ロスへ戻る準備としてシルビアが剣術と射撃を習っていた事だ。


危険だからと言う両親に、これこそが本当にやりたい事だと許可を得て、ボーイッシュな出で立ちで通っていた。


そんなシルビアも、今では19歳になっている。



「母さん、話がある……。」



「なあに?ダンちゃん。」



シルビアの誕生日が近づき、俺はある決断をした。


あいつがこの家を出て行くまで後数ヶ月……。

考えに考え、俺もロスに行く事にした。



「あら、ダンちゃんだけを行かせたりしないわよ?」



「は?」



「まだみんなには内緒だけど、引っ越すつもりなの。」



母親一人の考えらしいが、同じ事を考えていたとは驚きだ。



「何で内緒に?」



「そうねぇ、サプライズ?」



笑う母親を見て思う。

俺がトリック好きなのは母親の遺伝なのだと。


レイフとシルビアは好奇心も受け継いでいるが、俺達は母親よりそれらが強いらしい。


小さなサプライズを楽しむ母親とは違い、俺は壮大なトリックを楽しむ。



「はは、面白そうだな。母さん、このまま内緒で話を進めよう。」



「ダンちゃんが協力してくれたら完璧ね。みんなの驚く顔が楽しみだわ。」



確かに楽しみだ。

父親やレイフは勿論、一人で旅立つシルビアの反応も。

まさか俺達が後を追って来るとは思わないだろう。


こうして、ハウエル家移住計画は着々と進められて行った。



「落ち着いたら絶対呼ぶからな。だから安心して」



「不安なんて無いわ。信じて待ってるから。」



俺の言葉を遮り、微笑んでそう言ったリリィ。

俺達の信頼関係は完璧だと、俺も笑顔を見せた。



「俺もリリィを信頼してる。だから身辺整理の方、宜しくな。」



「ええ。すぐ行けるようにしておくわ。」



当然、俺達の準備も同時進行していた。

そんなある日……



「兄貴、ちょっと良いか?」



「ああ、どうした?」



「俺さ、ロスに引っ越そうと思うんだ。というか、転勤願いが受理された。」



意外と言うか当然と言うか、レイフも後を追うつもりでいたらしい。



「そうか。実はな、俺もその予定なんだ。」



一家で移住する話は伏せ、単身で引っ越すと話した。

嘘で固めるより、真実を織り交ぜた方が完璧な仕上がりになるからな。


誰にも気づかれる事なく準備は終わり、遂にシルビアの誕生日がやって来た。


盛大に祝い、昔話で盛り上がり、笑って過ごした誕生日。



「え、明日発つんじゃねぇの?」



「あれ?言ってなかった?結婚記念日に合わせて行くから出発は24日よ。」



「先に言っておけ……。俺達にも心構えってものがあるだろう。」



「あはは、うっかりしてた。ごめんね。」



かぶりを振る俺達と、見るからに安堵している父親。

別れの日が先に延び、ほっとしたのだろう。


というか、うっかりが多すぎる気がする。

もうすぐシャスタに会えるから上の空になるのも分かるが……


もしかしたら、マクファーソンはうっかり者だったのかも知れないな。

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