後を追う気満々のお兄ちゃん

【壊した物が悪かった】

「シルビアが泣いてた?」



頷いたレイフが詳細を話す。



「逢いたいのを我慢してるからな~、あいつ。連絡だけでもしたらどうだって言ったんだけど、俺達を捨てちまうから嫌なんだって。」



「俺達を捨てる……?」



「シャスタが飛んで来たら、気持ちを抑えられなくて捨てちゃうってさ。」



そういう事か。

家族を捨てたくないからシャスタの追跡を恐れていたんだな。


幼い自分を見せたくないからだと?

変な言い訳しやがって。



「そうか……。だったら何かで気を紛らわせてやろう。ああ、あれが良いかもな。」



俺が資料として使っていた本を貸してやろう。


格闘技や武器の本があったから、それをかき集めてシルビアの部屋に持って行った。

本の山を抱え、レイフにドアをノックさせる。



「ち、ちょっと待って!」



「早く開けろ~。兄貴の腕が死ぬぞ~。」



「えっ!ダン兄ちゃんの腕が!?」



慌ててドアを開けたシルビアを見て、喩えが悪かったと頬を掻くレイフ。



「びっくりさせないでよ!事故の後遺症が出たかと思ったじゃない!」



「ごめんごめん、それより入っていいか?」



ため息をつきながらも招き入れるシルビア。



「とりあえず置かせろ。」



と、本を落とすように机の上に置いたのだが……

その時、何かが壊れる音がした。


本の下を覗いて見ると、プラスチック製の何かが壊れていた。


何が置いてあったのかとシルビアの顔を見れば、ぷるぷると体を震わせていて……



「ダ……ダン兄ちゃんの……馬鹿ーーっ!」



「え、まさか大事な物を……?」



「そうよ!大事な物よ!ダン兄ちゃんなんか──大っっっ嫌い!」



「うっ!」



頭の中が真っ白になった。

大嫌いという言葉だけが響いている。



「それ言っちゃお終いだろ!?許してやれよ!」



「嫌!絶対許さない!」



シルビアをなだめるレイフの声が遠くに聞こえる。

許さないと言うシルビアの声も……。


もうお終いだ。

シルビアに嫌われた俺に生きる資格はない。



「あっ、ほら見ろ!ブツブツ言ってんじゃねぇか!」



「知らないわよ!もう出て行って!」



この時から5日間、俺の記憶は途切れている。


後から聞いた話によれば、ふらふらと立ち上がり、ふらふらと部屋を出て行ったそうだ。


5日間まともに食事も摂らず、ずっとブツブツ言っていたらしい。



許しを得て安堵したが、最長記録更新に笑うしかなかった。

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