【妹の前世を考える】

「話題はともかく、遅くなったら本当に心配するわよ?」



「だな。レイフさんが走り回る前に帰ろうぜ。」



ゼットにまたがりシルビアを探し回るレイフ。

そんな姿を良く見ている3人が、膨れるシルビアに帰宅を促した。



「もう!お兄ちゃん達って過保護すぎよ!そんなんだから彼女ができないのよ……。」



その声は怒りから心配に変わって行った。



「お前が心配する事じゃないだろう?俺達はちゃんと区別してる。妹と彼女は別だってな。」



「……だったら彼女作ってよ。お兄ちゃん達に彼女ができても彼氏を作ったりしないから……。」



シルビアが自分達を心配している事は知っている。

だが、恋愛は一人でするものではない。



「作ろうとして作れるものじゃないだろ?まあ、作る気はあるから心配するな。」



「そっか……そうなんだ……。」



作る気があると知り、ほっとしたようだ。



「心配してくれてありがとうな……。」



「だってみんなには幸せになって欲しいから……。」



家族に溺愛されて育った甘えん坊な妹。

だが、幼く見えてもしっかりした考えを持っている。


何よりも大切にしているのが家族であり、家族みんなの幸せを願っている。


死にも敏感で、家族が病気になると何も手に着かなくなる。

心配するあまり、眠る事もできず寝不足にもなっていた。



俺が入院した日から意識が戻る日までは、病気の時とは比べものにならない程の疲弊ぶりだったと聞いた。


死に直面したから当然かも知れないが、死に対して敏感すぎやしないだろうか。



握って産まれたあの指輪──。



あれが前世から持って来た物ならば、当然前世のシルビアは亡くなっている訳で……。


一体どんな亡くなり方をしたんだろう。

家族を失って、後を追うように亡くなったのだろうか。



幸せだったのか……?

辛い人生だったのか……?


生まれ変わった今は……幸せなのか?



「ダン兄ちゃん、疲れたの?」



考え込んでいた俺にそう尋ねるシルビア。

前世のお前を心配していたとはさすがに言えず……



「ああ、少しな……。」



苦笑するしかなかった。



「じゃあ帰るね。ゆっくり休んで。」



あっさり引き上げるのも、俺の身体を心配しているからだろう。



「気をつけて帰れよ。なんならレイフに迎えを頼め。」



「いいよ、みんなと帰るから。」



過保護だと笑って退室する4人。

確かにあのメンバーが一緒なら大丈夫だろう。


シルビア達を見送りひと息つく。



「前世……か。」



指輪に刻まれたSの文字。

Sはシルビアを愛していたんだろうな。


恐らくだが、先に亡くなったシルビアを見送り──


彼はまだ生きているのだろうか。

それとも亡くなって生まれ変わった……?


生まれ変わり、シルビアとの出逢いを待っている……?



そんな恋愛ができたら凄いと思う。

生まれ変わっても同じ相手を愛し、永遠のサイクルの中でそれを繰り返して生きて行く──



「まだ終わりませんか?」



ひょこっと顔を出したのはベネットだった。



「ん?ああ、点滴か?っと、終わってたな……。」



考え事をしているうちに終わっていたらしい。

コールがないので様子を見に来たのだろう。



「何か心配事でもあるんですか?」



「いや、人生について考えていた。」



そう答えると、心配そうな顔が更に険しくなった。



「腕なら治りますから悲観的にならないで下さい!」



必死な顔に苦笑する。



「自殺は考えてないから心配するな。人生……永遠のサイクルを考えていたんだ。」



「永遠の……?輪廻転生の事ですか?」



その言葉に驚いた。

普通、すぐに出て来る単語だろうか。



「輪廻転生はありますよ。死した人間は神の身許で浄化され、新たな命となって再びこの世に生まれて来るのですから。」



ちょっとまて。

もしやベネットは……



「噂では転生の印を持った子がいるそうですよ。奇跡の子──会ってみたいものです……。」



天を見つめるその顔は、神を信じ切ったものであり……



「親父達に負けず劣らずか……。」



ベネットの信心深さは相当なものだと察してしまった。


だとすれば妹には会わせられない。

奇跡の子がシルビアだと分かれば──俺達以上に溺愛するはずだ。


年齢的に姉のような存在となるベネット……。



いつかシルビアが言っていた。

兄だけでなく、姉も欲しかったと。


姉がいたらと話していたシルビアの夢は──



癪だな。

ベネットに取られるのは癪に障る。


なるべく2人を会わせないようにしよう。

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